前回に引き続き、今回も『人材の確保』をテーマにお話いたします。
思い切った経営判断による人材の確保
今回の企業は、以前、実車率向上の回でご紹介したF社です。
F社は長距離輸送を止め、短距離輸送のみに絞るという少しドラスティックな経営判断を行い、実車率向上を果たすことができた企業です。
実は、F社がこのような決断に至った経緯に、実車率向上という課題に加えて、ドライバーの離反が顕著になりつつあり、早急に対策を取る必要があったということがあります。
以前にも紹介したとおり、F社はかつて、長距離・短距離問わず、依頼される仕事はほとんど全て対応していました。
このことは、荷主にとっては融通が利く運送会社として評価されていましたが、一方でドライバーにとっては運行の予定が見えづらく、長距離の仕事が続き、負担が大きくなることもあり、不満の種となっていたのです。
また、比較的若いドライバーからも、長距離の仕事では家へ帰る時間を十分に確保できず、「家庭と仕事を両立できる仕事に替わりたい」といった声が上がっており、辞めていくドライバーが出てきていました。
そこで、F社では、こうしたドライバーの状況や、実車率を見直した結果を踏まえ、顧客離れや規模縮小等リスク要因を十分に考慮した上で、短距離の輸送に絞るという決断に踏み切ったのです。
結果として、ドライバーの拘束時間を短くすることができ、日帰りでの輸送にすることで、ドライバーの不満は解消されるようになり、ドライバーの離反を防ぐことに成功しました。
“当たり前”を徹底して実行する
この経営判断によりドライバーにとって“やさしい”短距離の仕事に絞るという方針にしたF社ですが、同時に従業員に対して、これまで忙しさを理由に目をつぶってきた“当たり前”のことを徹底して実行するように教育をしていきました。
まず、毎月、ドライバー個人別の売上を社内に張り出し、会社への貢献度合いを見える化させ、貢献度を少しでも高める意識づけをさせました。
車両の使い方についても徹底的に指導を行い、それまで雑に扱われすぐにボロボロになっていた車両を少しでも長く使えるようにしていきました。
加えて、事務系の従業員に対しても、電話で受注を受ける場合の金額の確認など、社内ルールを設け、徹底的に従業員教育を行うようにしていきました。
最終的にまじめに厳しいルールの下での取組を理解し、仕事に取り組む従業員だけが残るようになりました。
F社の取組のポイント
当然、F社が短距離輸送に絞るというドラスティックな判断を下すことができた背景には、F社の立地や主要荷主である関連会社との取引状況など、様々な要素が絡んでいます。
しかし、F社も前回ご紹介したM社同様に、「人材確保」という課題にのみ焦点を当てるのではなく、収益力を強化していく方策の中で人材の課題も検討し、解決しているという点がポイントとなったと考えています。
加えて、F社では会社の方針や取組を従業員に対して徹底的に落とし込み、共感性のある従業員だけが残り、一体感を作ることができたのは、長距離輸送を止めるという経営判断に対して自ら顧客折衝し、実現するという経営者の姿勢が大きく影響していると思われます。
次回も、『人材の確保』をテーマに企業の取り組み事例をご紹介します。