人材の確保(1)【運送業の課題解決の着眼点:第6回】

今回は『人材の確保』をテーマにお話いたします。

運送業を営む皆様にとって、人材、特にドライバーの確保は喫緊の課題の1つとなっているのではないでしょうか。
今回は、人材確保一つの課題のみに重点を置くのではなく、売上の1社依存をさげるという課題に取り組む過程で、人材の活用に成功している企業の取組を見ていきます。

 

M社の課題と戦略方針

今回、事例とするM社では、売上がある特定の荷主に依存した状態が何年も続いており、今後の戦略を議論していく中で、この荷主に依存した状態からの脱却を図り、よりリスク分散をしながら安定的に売上を確保ことが課題となっていました。

そこで、M社の社長は地域内に自社で対応できる新たな仕事を創出することを戦略方針として、情報収集をしていきました。

その中で、特殊な産業廃棄物処理の仕事が中長期的にわたって発生することが見込めると分かり、これを新たな仕事として取り込めるよう、まず産廃運搬の許認可を取得し、産廃運搬用のダンプを新たに設備投資するなどして、この事業への参入の準備を進めていきました。

準備を進める中で、この仕事を誰が担うのかという議論になり、ここで、M社の社長は高齢ドライバーの活用をしていくことを思いつきます。
といいますのも、M社の扱う荷物は、トレーラーや4トン車による長距離輸送が主であり、宿泊を伴うような長距離輸送の対応や、ドライバーの手作業での積み降しの作業は体への負担が大きく、高齢ドライバーの離職が進んでいました。

一方、産廃運搬の仕事は、M社の地域内での仕事で短距離輸送であるため拘束時間が短く、ダンプでの輸送のためドライバーの手作業が少ないことが特徴です。
そのため、体力的な問題から長く働くことを諦めざるを得なかった高齢ドライバーが十分に対応できる仕事であり、M社では活用できていなかった高齢ドライバーを活用することができたのです。

また、運搬する産廃が特殊であるため、十分な対策が必要であることから参入業者が少なく、売上高や収益を確保することができ、主要取引先への依存度を低めていくことができています。

 

若手ドライバーへの波及効果

M社では、高齢ドライバーの活用と並行して、採用活動も行っており、即戦力となる中途採用に加えて、地元の高校の新卒者を採用していくという取組も進めています。
新卒を採用する上で、教育や育成ということがポイントとなりますが、M社ではベテランドライバーが若手ドライバーの教育も担っており、経験豊富な高齢ドライバーが残ることで、全社で教育を行っていける体制をさらに強化することができました。

また、従業員に対して「長く働くことのできる職場」として見せることにつながっており、若手や中堅ドライバーの離反を防ぐ1つのポイントになっていると考えています。

 

M社の取組のポイント

M社の取組のポイントは、冒頭に記載したとおり、ただ単純に人材確保の課題に取り組むのではなく、その他の優先的な経営課題(当社では売上の一社依存度を下げること)を検討する過程で、人材確保の課題も解決していることです。

中小企業の場合、収益的に余力があるところは少なく、人材確保を先にしていくための固定費を吸収することが難しい企業様も多いと思います。

是非一例として参考にして頂ければと思います。

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