前回より引き続き、今回も『人材の確保』をテーマにお話いたします。
それでは、今回事例とするA社の取組について、詳しくみていきましょう。
A社の課題と社長の想い
A社は東日本大震災の被災地域にある企業であり、震災後にドライバーが減り、その後もドライバーを十分に確保することができない状態にありま
した。
また、A社は日本全国をほぼ網羅的に対応しているため、長距離輸送を余儀なくされる輸送体系になっています。
そのため、ドライバーの拘束時間が長く、加えて、荷物の積み下ろし時にドライバーによる手作業が必要となるため、ドライバーの負担は大きく、せっかく入社に至っても長続きせず、なかなか勤続年数を伸ばせないことも課題になっていました。
A社の社長は長期的に事業を拡大し、成長していける会社であることを掲げており、ドライバーを確保することは、避けては通れない課題となっていました。
輸送の効率化とドライバーの負担軽減
震災後、A社は既存ルートが使えなくなったことで、新たなルートへの変更を行いました。
新規ルートでの運行にあたり、既存の営業所から離れた場所に新たに営業所を設けることで輸送効率を向上できないか、荷物を積む場所、降ろす場所、荷物の内容を検証していきました。
また、それまでは、既存の拠点があるエリアでのみ採用を行っていましたが、新たなエリアでの採用も行えるよう、拠点を設けるのに最適な場所を検討していきました。
結果として、新たに設けた営業所により、それまで発生していた無駄な運行(即ち空車での回送)を削減することができ、輸送効率をグンと上げることができました。
また、これに伴って、ドライバーの拘束時間も短くなり、負担も軽減することにつなげていくことができたのです。
ただし、新たな拠点を設けることは、会社にとって都合の良いことばかりではなく、運営コストがかかることや、既存の従業員を配属させなくてはならいなど、負担も多くありました。
特に、営業所長や配車担当者については、A社の事業に精通した人材でなくてはならないため、既存の従業員を転勤させて対応しなくてはならず、その采配に非常に悩まれていましたが、本社に常駐していた経営幹部が営業所長として自ら手を上げ、周りの従業員にも説明し、納得を得ていきました。
給与体系の見直しによる若手ドライバーの収入の安定化
これまで、A社では歩合給がメインの給与体系でしたが、特に若手のドライバーにとっては安定した収入を得られるとは言い難く、業界水準と比較すると、若手は業界水準よりも低く、一方で、ベテランドライバーは業界水準よりも高い収入を得ているという状態にありました。
そのため、若手のドライバーの定着が悪く、A社ではこのことを危惧して、業界では一般的な歩合給をメインとする給与体系から、固定給をメインとする給与体系へと変えていくことを思い切って決断しました。
固定給をメインとすることで、業績に関わらず負担は変えられないため、会社にとってリスクは大きくなりましたが、若手ドライバーの離反を防ぎ、A社で長く勤務してもらえるようにすることを優先したのです。
当然、ベテランドライバーからは固定給に対する不満の声も上がりましたが、若手ドライバーを守るためであることを繰り返し説明していきました。
A社のポイント
A社では、自社の置かれた環境や、自社が抱える問題点を冷静に分析し、その解決にあたっては、社長の「従業員に長く働いてもらいたい」という強い想い(方針)をもとに、一つひとつ具体策を検討したこと、またその実行段階にあたっては、時には経営者自らが思い切って行動し、従業員に示したことなどがポイントになったと考えています。
これが、A社の特徴的な輸送に精通した人材の育成につながり、ひいては、社長の想いである「長期的に事業を拡大し、成長していける会社」にしていくということにもつながっていると思います。
現在、A社では顧客のニーズに応えながら、輸送効率の更なる向上、ドライバーの手作業負担の軽減を狙って、新たな輸送システムの開発を行っていますが、このことにも、常に成長していくためには何をしていくべきかという、A社の社長のチャレンジ精神が現れていると思います。
次回は、運送業を営む経営者様が抱える課題の「実車率の向上」、「荷主の動向を掴む」、「人材の確保」について、3つのポイントをまとめていきます。