フリーキャッシュフロー法(3)【中小建設企業のM&A・第6回】

前回は割引率次第でフリーキャッシュフロー法による企業価値が変わるとお伝えしました。
また、割引率には株主資本コストと有利子負債コストの2種類があり、それを加重平均した割引率(WACC)を用いる事もご紹介しました。
今回と次回でまずは株主資本コストについて考えてみます。

 

株主資本コストとは

株主資本コストとは、株主が求める期待収益率であり、MAの場合には、買手が求める期待収益率と売手が求める期待収益率が異なり、これが割引率の違いになってあらわれます。
その違いが企業価値の評価額へも影響してくるのです。

株主資本コストの算出は、一般的には以下のような計算式であらわされます。

【株主資本コストの計算式:株主資本コスト=リスクフリーレート+リスクプレミアム】

リスクフリーレートとは、安全な資産への利回りであり、例えば、国債のような無リスク資産の収益率です。

リスクプレミアムとは、リスクのある資産の期待収益率から無リスク資産の収益率を引いた差のことです。
ここで言う「リスクのある資産」こそが「株式」であり、リスクの発現可能性が大きく割引率に影響を与えるのです。

ただし、リスクの発現可能性といっても、個別の企業のリスクを積み上げていき、それがどんな確率で発現していくかを一つ一つ検証して割引率を求めることは現実的ではありません。
そのため、実務上、良く利用される方法が以下の算出方法です。

【リスクプレミアム=β(ベータ)×マーケットリスクプレミアム】
マーケットリスクプレミアムとは、無リスク資産の収益率を上回る株式市場全体の収益率のことです。
一般的に過去の株式、債権の利回り実績を参考に推定します。

βとは、株式市場全体の変動に伴い個別株式がどのように変動するかを示す係数です。
景気に左右される飲食業界などは市場全体の動きより株価が大きく反応するのでβが高くなります。
反対に景気にあまり左右されないインフラ業界などはβが小さくなります。
このβを用いてマーケットリスクプレミアムから個別のリスクプレミアムを推定するのです。
このβについては次回、考えていきます。

また、中小企業の株主資本コストを考える際にはリスクフリーレートとリスクプレミアムに加えて、倒産リスクや規模のリスク等の対象企業特有のリスクを個別に考慮する事もあります。
どのようなリスクを織り込むかで株主資本コストが変わってくるため、最終的には買手と売手のリスクに対する考えの違いが企業価値の評価額に影響してくるのです。

今回は株主資本コストについて詳しく見てきました。
次回は株主資本コストを構成しているリスクプレミアムを求めるために必要なβについて考えたいと思います。

 

まとめ

中小企業の株主資本コストはリスクフリーレート、リスクプレミアム、対象企業特有のリスクが含まれる。

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