4.営業権評価 (年買法)

前回、中小企業のM&Aの実務では「営業権を含めた時価純資産額法」がよく使われるとお話しました。今回はこの場合の営業権の評価について考えてみましょう。

前回みたとおり時価純資産額法はシンプルで分りやすい方法です。しかし、その評価額は会社の将来性や収益力を反映していません。さらに、会社には貸借対照表に計上されていない無形の価値(ブランド力、技術・ノウハウ、販売先等の顧客資産、人的資産など)があります。

建設業の場合であれば、建設業許可や公共工事の入札参加資格、経審の評点なども、この無形の価値に含まれるでしょう。このような経営資源(と言ってもいいでしょう)を、時間をかけずに手に入れられることは、M&Aを行う大きなメリットといえます。しかし、時価純資産額法ではこれらの無形の資産については考慮されません。

そこで、このような時価純資産額法の欠点を補うため、会社の収益力や貸借対照表に計上されない無形の資産の価値を営業権として評価しようというものです。

前置きが長くなりましたが、ここから営業権の算定方法をみていくことにしましょう。営業権の算定の仕方には、超過収益還元法、相続税法に規定する方法、年買法などいろいろな方法があります。決め手になるような方法はないのですが、ここでは、簡単に計算できておおよその目安をつけるのに役立つ簡便的な方法として、「年買法」をご紹介します。

年買法は、過去3~5年の税引後の平均経常利益の3~5倍を営業権の金額とする方法です(経常利益の代わりに営業利益や当期利益を使うこともあります)。現状の利益が安定的に続くと予想する場合には5年分で計算し、逆に保守的に考える場合には3年分で計算します。

たとえば、過去3年間の税引後の平均経常利益が3千万円であったとすると、年数を3年として、
    営業権評価額=3千万円×3年 =9千万円
となります。

 

このとき、役員報酬の調整が必要になることがあります。中小企業の場合、役員報酬額は社長が決めていることがほとんどです。そのため各会社でその額に大きな開きがあります。たとえば建設業であれば、工事の入札に参加するために、役員報酬を少なめに計上して利益をだしている場合があるかもしれません。逆に、過大な役員報酬をとって利益を出さないようにしている会社もあるかもしれません。どちらにしても、役員報酬を標準的な金額に修正したうえで経常利益を計算し直してから営業権を算定します。

また、平均経常利益が同じ3千万円であったとしても、資産額が5億円の会社と10億円の会社ではその評価はまったく異なります。資産を効率的に利用している程度が違うからです。算定された営業権をどう評価するかは、M&Aのシナジー効果をどうみるかによっても変わってきます。

次回は、大企業でよく使われる企業評価の方法、DCF法についてみていくことにしましょう。

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