今回から企業評価のお話です。1回目の今回は、M&Aにおける企業評価のもつ意味について考えてみましょう。
M&Aはビジネスの売買であり、そこには買い手と売り手が存在します。買い手にとってM&Aは新たな投資ですから、それを実行した結果得られるリターン(将来生み出される利益の合計、あるいは回収できる金額)、すなわち投資の価値が、投資にかかる資金や費用を上回ると期待できる場合にのみ実行されます。買収対象がどんなにいい企業(事業)であっても、高い買い物であるならばそのM&Aは成功とはいえません。一方、売り手にとって売却は投資の回収ですからより多くの回収を目指して努力するのは当然です。
そこで、M&Aにおいては、売り手と買い手が交渉し譲歩しあいながら、それぞれの許容できる範囲の中でお互いが合意できる取引価格を探っていくことになります。そのため交渉をスタートする時点で売り手・買い手ともに対象となる企業(事業)の投資価値を知っておく必要があり企業評価が行われます。
企業評価は売り手・買い手双方が独自に行いますが、同じ方法で評価したとしても評価額が同じになることは、残念ながらまずありません。対象企業に関する情報量の差、将来の収益の予測、リスク要因、資産の時価、シナジー効果などに対する考え方の違いが評価の差になってあらわれるためです。企業評価は主観的な要因に影響をうけるため、誰もが納得する正しい評価額というものはありません。M&Aにおいて企業評価を行う目的は、誰もが認める正しい価値を求めることではなくて交渉の出発点となる水準の価格を求めることにあります。
したがって、この評価額がそのまま最終的な買収価格になるわけではありません。デューデリジェンス(買収監査)の結果やM&Aのスキーム、どうしても契約を成立させたいのは売り手なのか買い手なのか、当事者の交渉力などによって最終的な買収価格は決まってきます。M&Aにおける企業の価値は、結局のところ当事者が納得した取引価格であるといえるかもしれません。
次回からは具体的な企業評価の方法についてみていくことにしましょう。