前回までのところでは、中小企業のM&Aの中心的な評価方法である「営業権を含む時価純資産額法」についてお話しました。企業評価の4回目の今回からは、特に大企業のM&Aの実務で広く使われているDCF法についてみていくことにしましょう。
DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法は、現代の基本的な企業評価方法といわれています。その前提には、事業の価値は、その事業が将来生みだすキャッシュフローで決まるという考え方があります。キャッシュフローは、企業がその事業から稼ぎだすお金のことです。キャッシュフローこそが事業が生みだす価値であり、キャッシュフローを評価することで、その事業を適切に評価できると考えるわけです。
DCF法では、会社が行っている事業が、将来存続する期間にわたって生みだすと予想されるフリー・キャッシュフローを、現在の価値に引き直したものを合計して事業価値を算定します。フリー・キャッシュフローというのは、費用や税金を支払い、事業を続けるために必要な投資をした後に残るお金のことです。フリー・キャッシュフローがプラスであれば、借入金の返済に充てたり、株主に配当したり、預金として保有したり、新しい事業の元手にすることもできますね。いうならば自由(フリー)に使えるお金なので、フリー・キャッシュフローと呼ばれます。
DCF法の計算は、その名前が示すとおり
① 将来のフリー・キャッシュフローを予測し
② このフリー・キャッシュフローの現在価値への割引計算(ディスカウント)を行う
という2つの基本的なプロセスをへて行われます。
では、予測したフリー・キャッシュフローの割引計算を行うのはなぜでしょう。それは、現在の100万円は1年後の100万円より、1年後の100万円は2年後の100万円より価値が高いと考えられるからです。100万円を1年間貸したなら金利が稼げます。これを時間の価値と考えます。また、将来のキャッシュフロー100万円は予測ですからリスクがあります。遠い将来になればなるほどリスク(不確実性)は高くなりますよね。このように、タイミングの違うキャッシュフローは同じ金額でもその価値が違うので、そのままでは評価できません。将来のキャッシュフローを、時間の価値やリスクを考慮した一定の割引率(割引率については、後日詳しくみていこうと思います)で割り引いて現在価値に直すことで、はじめて比較したり評価したりすることができるようになります。
DCF法は、自分が提供した資金を使って高いリターンを上げることを期待する投資家を重視していること、会計上の利益ではなく会計処理方法に影響を受けないキャッシュフローを評価の対象としていること、時間の価値やリスクを考慮していること、などの点から理論的にすぐれた方法といわれています。ですが一方で、キャッシュフローの予測や割引率の算定において、前提条件を少し変えるだけで評価の結果が大きく違ってきてしまうという難しさがあるのも事実です。
今回は、DCF法の評価の考え方についてお話しました。次回から、DCF法の具体的な方法についてもう少し詳しくみていくことにしましょう。