フリーキャッシュフロー法(2)【中小建設企業のM&A・第5回】

前回はフリーキャッシュフロー法の全体像と過去および将来のキャッシュフロー分析について書かせて頂きました。 今回は残りのステップの留意点を確認していきます。  

ステップ3:資本コストの推計

キャッシュフローを現在価値に引き直すための割引率を算出する事が目的 となります。この割引率を資本コストといいます。 資本コストとは企業が資金を調達するためのコストであり、借入金にかかる有利子負債コストと株主からの資本調達にかかる株主資本コストがあります。 この2種類のコストを加重平均したコストをWACC(通称:ワック)と呼び、割引率として用います。 有利子負債コストは損益計算書の支払利息と貸借対照表の有利子負債を利用して算出する方法等があります。 一方で、株主資本コストは算出が難しく、絶対的な正解は存在しない指標となります。 この割引率次第で企業価値は大きく変動する事から、割引率をどの程度にするかは非常に重要になってきます。  

ステップ4:継続価値の計算(事業価値の計算)

企業価値を算定する場合、継続企業(事業が半永久的に存続していく)が前提となります。 そのため、例えば将来計画が5年間しかなかったとしても、6年目以降の価値も算定していく必要があります。 このような6年目以降の価値をTV(ターミナルバリュー)と呼びます。 その算出に当たっては企業の一定の成長率を考慮していく事となります。 株主資本コスト等と同様で、この成長率次第で企業価値は大きく変動するため割引率同様に慎重に判断していく事が求められます。 建設業の場合には、全体の建設市場が縮小傾向にある一方で、業界の仕事内容は多岐に渡っている事から、成長する分野や縮小する分野など違いも出てきます。 そのため対象企業の強みや今後進出する分野等を見極めて、出来るだけ正確な成長率を算定していく事は企業価値の算出のためにとても重要となってきます。  

ステップ5:企業価値の計算

上記から算出された将来キャッシュフローの現在価値が企業の事業価値になります。 しかし、企業が保有する資産の中には事業に使用していない遊休資産等が存在している事もあります。 このような非事業資産(本業と無関係な資産)を考慮する事も、企業の価値を算出する上で大事になります。 このような資産の処分価値を事業価値に加えて企業価値を最終的に算出していきます。 企業価値の算出には正解がないと第二回で書かせて頂いたように、フリーキャッシュフロー法では割引率次第で企業価値が大きく変わってきます。 次回はその重要なポイントとなる割引率についてご説明をしていきます。  

まとめ

企業価値は割引率により大きく変動するため、慎重に判断していく事が必要になってくる。

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