荷主の動向を掴む(3)【運送業の課題解決の着眼点:第5回】

前回にひきつづき、今回も『荷主の動向を掴む』をテーマに、A社の取組を見ていきたいと思います。

A社は実車率向上のために、独自の輸送システムを開発している企業として、以前ご紹介した企業です。
A社が開発した輸送システムとは、液体輸送においてタンクローリーを用いた輸送ではなく、通常のコンテナで液体を輸送できる袋状のタンクを用いた輸送システムです。

 

A社を取り巻く環境変化

A社の液体輸送事業は、ある液体原材料を扱っています。
A社はこの液体輸送により一定レベルの売上高を確保できているものの、以下のように自社でどうすることもできない外部環境の影響を受けやすい状況があります。

・生産量が年々減少してきている
・国の規制の強い業界で、出荷量を制限される
・業界で一定シェアを占める大手企業がタンクローリーでの輸送を優遇している

加えて、最近ではA社の主要取引先である荷主の競合他社が台頭してきているということもあります。

これは、規制の強い業界に新しい風を起こし、業界の活性化、ひいてはA社のチャンスとなる可能性がある一方で、業界内の取引量の構造自体にも影響が出る可能性があるなど、今後A社がこの業界で売上を伸ばしていくことが不透明な状況にあります。

 

他業界の顧客へのアプローチ

このように、A社の場合、実際に取引を行っている業者との関係や取引業者の状況だけでなく、取引業者の属する業界全体の環境や動向によって業況を大きく左右されてしまいます。
そこで、A社では1つの業界への依存度を軽減するために、他の業界への進出を検討し、自社開発のタンクを用いて対応できる醤油などの液体食品や化学薬品、飼料などの輸送への進出に向けて営業活動を行っています。

例えば、この袋状のタンクを用いることで、1回の輸送でタンクローリーの倍の量を輸送でき、荷主にとっても1回の輸送でタンクローリー2回分の輸送を行えることから、輸送コストを抑えられるメリットがあります。
また、タンクローリーよりも衛生管理を徹底して行えることから、タンクローリーでは輸送できなかった荷物を扱えることや、既存の商圏から範囲を広げた対応ができるなど、このタンクを用いることで得られるメリットを荷主に対してアピールし、新規荷主の開拓を行っています。

加えて、A社では自社開発のタンクをタンクローリーに代わる液体輸送の媒体として業界全体に広めるために、このタンクを使った輸送を行う協力会社の開拓を進めています。
こうした取組により、複数の業界の輸送を手掛け、自社開発のタンクを広く利用してもらうことで、リスク分散を行おうとしています。

 

A社の取り組み事例のポイント

A社のポイントとして、実際に取引をしている荷主の状況や要望、荷主の業界全体の動向を捉えることで、目先の取引だけに囚われず、これからの事業展開を踏まえた新規業界への進出を見据えていることや、A社と荷主の双方にメリットのある提案を行っていることがあります。
取引をする荷主や業界、同業他社よりも一歩先に進むための舵取りをしていくことが、これからの運送業界で成長していくために必要なポイントなのではないかと思います。

次回は、『人材の確保』をテーマに企業の取り組み事例をご紹介します。

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