今回は前回より引き続き、『荷主の動向を掴む』をテーマに、H社の最近の取組をみていきます。
顧客深耕のためのエリア拡大を狙う
現在、H社では主要取引先の1つである全国リース(株)(仮称)の仕事について、対応可能エリアの拡大を狙っています。
全国リースは建設現場やイベント会場で用いる設備等のリース・レンタルを全国展開している会社です。
H社ではこれまで一部のエリアの運送を担ってきましたが、全国リースとの日々のやり取りで、他エリアで対応が可能な業者が少なくなり困っていると聞くことが増えています。
H社が対応可能エリアを拡大するためには、新たな拠点と全国リース用の倉庫を設けることが必要となりますが、これまでに培った倉庫業のノウハウをもとに、全国リースの物流全体を担うような提案を検討しています。
スムーズな配車能力を強みに
全国リースに対してこうした働きかけをしようとしているポイントに、H社の配車能力が強みとしてあります。
全国リースの荷物は工事やイベント現場向けの運送であり、早朝や深夜などの時間帯の対応や、工事やイベント終了後の運送で、具体的な出発時間の予測が難しい不規則な時間での対応が求められます。
そのため、運転手や車両の確保、運行時間の管理など配車には熟練したノウハウが必要となりますが、H社では自ら運転手として全国リースの荷物を担当していた営業所長が、諸条件や現場の負担感を理解した上で、配車を担当していることがスムーズな対応につながっています。
また、自車だけで対応できない場合、傭車を確保することになりますが、ここでの協力会社との関係づくりにも常に気を配っています。
例えば、深夜に傭車を手配する場合には、傭車を先に帰らせて拘束時間を短くし、現場には自社の運転手が最後に残るように指示を出しています。
このようにして、傭車対応をしてくれる協力会社との関係を保ちながら、全国リースからも安心や信頼を得ているのです。
現場との一体感が荷主の動向を掴むカギに
このような配車管理は他の運送会社では十分に対応できないことから、H社は全国リースに対する運賃の交渉力も強化することができ、定期的に運賃の値上げ交渉を行うこともできています。
H社では売上の一部が運転手の給与になる歩合制を取っているため、自社の運転手にとっても全国リースの荷物を担当することはメリットになっているのです。
H社にはいくつかの営業所があり、各所長が担当エリアの配車を行っていますが、社長や各所長が元は運転手であること、現在でも状況に応じて社長や所長自ら運転手として現場に出ているということが、このようなノウハウ蓄積の礎となっています。
運転手だけに現場を任せるのではなく、経営陣も自ら出向くことで、現場との一体感が生まれ、現場の生の声や課題、荷主の動向を掴むことにつながっているのです。
今回検討している運送エリアの拡大は、新たなエリアに拠点や倉庫を設けるようになるため、決して容易ではないと考えています。
そこで、用地開拓や人員配置などを含め、毎月の会議で戦略や実際の計画について、目線合わせをしながら、議論を重ねています。
自社や取引先が置かれている環境を的確に、タイムリーに捉え、これまでに蓄積してきたノウハウを活かして、中長期的な目線で事業展開を考えていることが、H社のポイントだと考えています。
次回も『荷主の動向を掴む』をテーマに、別企業の取組事例を見ていきたいと思います。