値上げ交渉の成功事例!食品&家具メーカーの奮闘記【後編】

消費者向けの最終商品を製造し、流通大手(食品スーパーや家具専門店)を通じた販売において、値上げ交渉に成功した2社の事例をご紹介します。前編では、味噌醤油メーカーA社の事例をご紹介しました。

後編では、家具メーカーB社の事例をご紹介します。

前回コラム

木製家具メーカーB社の家具専門店との交渉事例

B社は四国地方に立地する、業歴約50年の木製家具製造業です。
年間売上高は二十億円強、従業員数約百二十名の中堅企業であり、主として自社ブランドでの家具を全国の家具専門店やホームセンターに納めています。
当社の扱う箱物(収納)家具は、全般的にマンション等でのビルトインによる代替が進み、全国的に数量が大きく減少しています。

しかし、そのような環境下においても、当社の家具はその機能性やデザイン性の高さから、高付加価値な家具として位置づけられており、業績は堅調に推移していました。
当社におけるコロナ禍の影響は、初期の段階こそ、専門店の店舗閉鎖などの影響で売上が減少しましたが、その後は巣ごもりや在宅勤務が追い風となり、むしろ需要は高まりました。

B社にも原価高騰の影響が

販売面が好調な一方で、B社にも資材高騰の影響が降りかかります。
特に、ウッドショックにより、製品を作るのに不可欠な主要木材の劇的な高騰により、利益率は大きく低下しました。

A社と同様に、B社も毎月の売上と原価の推移を管理しています。
家具を作るには木材以外にも様々な部材が必要となりますが、各々の部材が少しずつ値上がりし、当社の利益率が毎月明らかに減少していくことが見てとれました。

先ほど「コスト起点の考え方に終始してしまうことはNG」だと書きましたが、原価の実態を把握することは重要です。
原価の高騰が会社全体としてあるいは製品別などに、どの程度の影響を及ぼしているのかを見定める必要があります。

ここで製造業などの場合、「限界利益」という指標が重要です。
限界利益とは下の図の通り、売上高から変動費(材料費や商品仕入、外注費など売上に比例して変動する費用)を差し引いて算出します。

労務費等の固定費を含めた売上原価を差し引いて算出する売上総利益(粗利益)と違って、限界利益では変動費のみを差し引きます。

そのため、原材料費や外注費の増減を敏感にとらえることができ、値上げの必要性など、経営の重要な意思決定に役立ちます。
なお、限界利益は「付加価値」とほとんど同義で、自社が生み出した価値を見る指標となります。

B社ではこの限界利益(付加価値)管理をもとに、毎月、経営者と幹部が会議で議論しています。
製品ごとの限界利益額や率を出すことで、どの製品の値上げを優先すべきか、どの製品については廃番を検討するかなども明確になります。
また、製品別に価格改定の案を検討した上で、それが実現した場合に、会社全体の利益がどう変わるのかも値上げ前の重要な検証になります。

専門店との価格交渉

以上のような管理会計に基づく検証の結果、B社では売上は好調でも、限界利益率の低い商品を中心に価格改定を実行し、トータルとして約8%の価格改定に踏み切りました。

会議では、それだけの値上げを実行することで顧客離れが起きないか、どのようにしたらそれだけの価値を認めてもらえるかを繰り返し議論し、結果として、主に次の二点に取り組みました。

まず、商品の価値を高めていくために、もともと当社がメインとしていた商品アイテムにプラスして、居心地の良い「空間づくり」やライフスタイルを提案する商品開発やアイテムの充実を図ったことです。
おうち時間が増えることで、家具やインテリアへの関心が高まっていた消費者を意識し、展示方法も単なる商品の陳列ではなく、実際のLDKでの使用シーンをイメージした空間を演出することで、専門店の売り場を活性化し、相手のメリットにもつなげていくことができました。

もう一点は、消費者とより直接的につながるための取組みで、具体的にはSNSと自社ショールームの活用です。
たとえば、当社のInstagram公式アカウントでは、ユーザーによる当社製品の使用状況(収納の仕方・見せ方など)の投稿を促すキャンペーンを行い、ユーザーとのコミュニケーションを図っています。
製品を売って終わりではなく、ユーザーとのコミュニケーションの仕組みを構築したことで、もとは専門店を通じての販売であっても、ユーザーに自社(メーカー)が直接認知されることにつながっています。
ユーザーの投稿が、別のユーザーに口コミとして広がっている実感も生まれています。

このようにユーザーとの直接的な接点をもつことにより、専門店に当社の商品を買いにきたという指名買いが増えています。
A社同様にこれがバイヤーに価格改定を認めてもらえる決定打となりました。

現在は自社ショールーム直販もスタートしながら、B社も更なる成長に向けて動き出しています。

両社の共通点と成功のポイント

以上の事例で見てきました通り、価格決定権をもつためには、販売チャネルの先にいる消費者とのつながりを意識し、消費者に選ばれる商品づくりをしていくことです。
それは必ずしも、直接販売をするということではなく、今の時代、様々な方法で消費者と直接つながることができます。
現在、販売チャネル経由でしか消費者の情報を得られていない場合には、まずはここから着手しましょう。

また、価格設定に関しては、コストを吸収していく「コスト起点の考え方」と、自社の強みを活かして自社が創造する価値を高めていく「価値起点の考え方」があることを説明しました。
どちらも重要ですが、中小企業では「コスト起点の考え方」に偏りがちです。

事例の2社は、「価値起点」を重視しながら、消費者に訴求する商品開発やその発信の仕方に真剣に取り組んできました。
そのようにして「指名買い」を得ることで、スーパーや専門店のバイヤーに納得感を与えられたことが、価格交渉を成功させたポイントだといえるでしょう。

本記事は『近代中小企業』6月号に掲載して頂きました。

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

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この記事の執筆者

澤田 兼一郎
(株式会社みどり合同経営 代表取締役/中小企業診断士)

立命館大学経済学部経済学科卒業、第二地方銀行を経て当社に入社。中小企業を中心に、経営計画や事業計画の実行性を高める、現場主義のコンサルティングを実施。
特に中小建設業、製造業の経営管理体制の構築、実行力を高めていく組織再構築等のノウハウ等について評価を受ける。

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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