値上げ交渉の成功事例!食品&家具メーカーの奮闘記【前編】

消費者向けの最終商品を製造し、流通大手(食品スーパーや家具専門店)を通じた販売において、値上げ交渉に成功した2社の事例をご紹介します。
一般的に流通大手との取引においては、中小メーカーに価格決定権がなく、そのタイミングも限られていますが、両社は消費者に訴求する商品開発力を活かし、「指名買い」を得ることで、自社ブランド力に基づく価格決定が実行できています。

両社の「指名買い」を得るための商品の高付加価値化の取組みと、付加価値管理(管理会計)を活用した意思決定の仕組みについてご説明します。

2社の事例を前編・後編に分けてご紹介します。今回は味噌醤油メーカーA社の事例です。

味噌醤油メーカーA社の首都圏スーパーとの交渉事例 

A社は、東北地方にある従業員約70名の味噌醤油メーカーです。
観光地としても人気のある地域に本社を置き、地元で百数十年の歴史のある老舗企業です。

味噌や醤油などの和食に合った調味料は、日本人の食生活の変化に伴い、需要は減少しています。
しかし、同社は商品の味と多品種展開の品揃え、雰囲気のある直営店を強みにブランド力を発揮し、地元客や観光客に愛されてきました。
職人による製造工程を見学できる工場ツアーも人気で、当社の直営店兼本社工場は、常に多くの人でにぎわっていました。

しかし、新型コロナウィルス感染症の拡大により、状況は一変します。
人々の外出自粛に伴い、当社店舗も一時閉店や営業時間の短縮を余儀なくされ、その後も観光客は激減しました。
既存客のリピートを中心に自社ECサイトでの販売が健闘しつつも、店舗販売の減少を補うほどではありません。

そこで取り組んだのが、卸売事業の強化です。

首都圏スーパーとの取引開始

以前より将来的な地元市場の縮小に危機感を抱いていたA社はコロナ禍の少し前より、元大手スーパーバイヤーとの顧問契約を締結し、その指導のもと、まずは近隣エリアのスーパーとの取引をスタートしていました。
ここである程度の卸売業の経験を積んだのち、次の段階で、首都圏を含む東日本エリアの流通業者の開拓に乗り出しました。

顧問の指導を受けながら、社長や担当部長によるWEB商談のアポ取りに加え、流通バイヤーが集う展示会への参加など、多くのバイヤーとのコンタクトを図りました。
さらにこれらをリスト化して、取引金融機関へビジネスマッチングを依頼するなど、内外の総力をかけて取引先を少しずつ開拓していきました。

そこでコロナ禍に突入します。
コロナ禍では、食品の自宅用消費が増加し、中でも、「自宅でちょっとした贅沢を手軽に楽しみたい」といったニーズが顕在化しました。
スーパー側としても、そのようなニーズに対応する商品を探していたところ、当社側からの提案がそれにマッチしました。
廉価で大量生産の一般的な味噌・醤油ではなく、「地方で素材にこだわった天然醸造の商品」という希少性や「職人によるこだわりの製法」などが顧客にとっての魅力(付加価値)となり、自宅で楽しめる地域の名産品は、首都圏のスーパーでも幅広い層に支持されました。
特に、首都圏に移り住んだ地元の人々が、馴染みの味を求め、同スーパーに来店する傾向がありました。

また、コロナ禍での自宅調理におけるニーズに合わせて「簡単」「便利」に料理ができ、「無添加で体に良い」商品を社長が中心となって多く開発したことで、首都圏スーパーでの売上は好調に推移していきました。
同社にとっては、一製品あたりの利益率は下がりますが、生産キャパの余力を活かし、大量取引により付加価値額を確保することが可能になりました。

原価高騰の影響

新たな販売チャネルの強化により売上を回復させたA社ですが、今度は原材料の高騰に襲われます。

味噌や醤油の原材料となる大豆は、2020年の夏ごろから急速に上昇し、この2~3年で2倍以上に値上がりしています。
同社では毎月、チャネル別、主要顧客別などに売上および原価を分析していますが、スーパーのチャネルはもともと自社直営店などに比べて利益率が低く設定されていたところ、原材料の高騰により、付加価値率はさらに減少してしまいました。

また、良い人材の確保のためには、人件費も相応に上げていかなければなりません。
そこで、スーパーへの値上げ交渉が必要と判断しました。

スーパーとの価格交渉

冒頭にも記載しました通り、一般的に流通大手との取引において、中小メーカーの価格決定権は限られています。
そのような中で、価格交渉を上手く進めていくためには、下表のポイントを押さえると良いでしょう。

1.事前の準備
価格交渉に入る前に、自社の製品やサービスの特徴や強み、コスト構造、競合環境などをしっかりと把握しておく。顧客の事情や戦略、販売実績なども調べておくと、交渉のポイントやアプローチが見えてくる。

2.相手の立場の理解
顧客側も自社の利益を最大化したいのは当然。どのような提案が顧客にとってもメリットがあるかを考え、相手に納得してもらえる価格設定を提案する。

3.交渉のタイミングの見極め
商品ライフサイクルやスーパーの販売戦略、季節性のある商品などによって異なる。自社の製品やサービスの特徴や強み、顧客の販売戦略などを踏まえ、適切なタイミングで交渉を行う。

4.価格以外の提案
価格以外にも、ロット数や納品条件、支払条件など、交渉のポイントとなる項目がないかを検討する。

5.交渉結果の確認
価格交渉が成立した場合は、交渉の結果を正式に文書化。交渉後も顧客とのコミュニケーションを継続し、「お困りごと」等の収集に努める。

A社でも早速、事前の準備にとりかかりました。

相手の立場の理解等においては、顧問のアドバイスやこれまでの近隣エリアでの卸売経験が役立ちました。
ただし、通常、スーパーにおける日配品の価格改定は年に二回(四月、十月など)ですが、今回はあまりにも急激な原材料の高騰に苦慮していたことから、できるだけ早期の実現を目指しました。

ここで多くの企業が陥りやすいのは、「原材料がいくら上がったから」というコスト起点の考え方に終始してしまうことです。
それだと結果的に消費者に受け入れられず、仮に価格改定ができても、売上が減少し、収益面ではマイナスに終わってしまうからです。

そこで大切なのは、自社の強みを活かして作り出した「他社とは差別化された付加価値」をベースに価格設定を考えていくことです。
その「価値」に対して、顧客がいくらなら受け入れてくれるのかを起点に考えること、そしてその「価値」を意識し、高めていくことに注力していくことが重要です。

A社では、長年の店舗直販で培ってきた経験により、消費者に訴求する商品づくりをしてきたことが大きく寄与しました。
たとえば、A社では実際に直営店でユーザーインタビューを行いながら、消費者目線での商品開発やパッケージづくり、企業と顧客との接点(タッチポイント)の改善を行ってきた経験があります。

また、自社ECサイトの責任者は、店舗に来られない顧客に訴求するための商品の見せ方やSNSでの発信、販売方法の工夫を長年考えてきました。

このように顧客とのコミュニケーションを続け、消費者との距離感が近かったからこそ、価格改定をしてもなお顧客に受け入れてもらえるという当社の説明は説得力をもちました。
実際に、当社の商品があるから来たという指名買いが多かったこともバイヤーに認めてもらえる要因となりました。

価格交渉を乗り越え、現在A社の卸売事業は、全社売上の約25%を占めるまでに成長しています。
今後はアフターコロナを見据え、従来事業に加えて、インバウンド顧客にリピート買いをしていただくための越境ECや海外流通への販路拡大など、さらなる成長を目指しています。

後編では、木製家具メーカーの事例をご紹介します。

本記事は『近代中小企業』6月号に掲載して頂きました。

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

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この記事の執筆者

澤田 兼一郎
(株式会社みどり合同経営 代表取締役/中小企業診断士)

立命館大学経済学部経済学科卒業、第二地方銀行を経て当社に入社。中小企業を中心に、経営計画や事業計画の実行性を高める、現場主義のコンサルティングを実施。
特に中小建設業、製造業の経営管理体制の構築、実行力を高めていく組織再構築等のノウハウ等について評価を受ける。

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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