前回は、A社の不良発生の内容と外注管理担当者の悩みをご紹介しました。
今回は、外注先の協力体制をどのように構築したかをご紹介します。
Mさんの転機
A社の外注管理担当者であるMさんは、外注先が不良を繰り返すことに困っていました。
そして、改善の提案に外注先T社の社長が耳を傾けてくれないことに悩んでいました。
そんなMさんに転機が訪れました。
ハウスメーカーからの注文が右肩上がりに増え続け、外注先T社は連日の残業と休日出勤で生産を続ける状況となっていました。
そこで、A社では新しい外注先K社を探して、Mさんにその工場の立ち上げ指導を命じたのでした。
新しい外注先K社は、外壁建材の取扱い経験はありますが、ハウスメーカー向けに膨大な種類の加工をするのは初めての経験です。
この業務を始めるためには設備も導入しなければなりませんし、品質規格や納入仕様を元に、作業者の教育もしなければなりません。
この仕事にMさんは奮い立ちました。
Mさんは、この新しい仕事にこれまでの悩みをぶつけるかのように、不良の出ない設備や作業方法を考えて、新工場の立ち上げを行いました。
Mさんの検討は、作業の効率を高めるためのレイアウトや歩留まりを高める作業方法にまで及びました。
実はこの検討には、Mさんが外注先T社の現場で作業を見ながら「どうすれば不良を無くせるか」と考え続けたことが大きく役に立っていたのです。
外注先T社の変化
新しい外注先K社の加工業務は、Mさんの必死の努力もあり、順調に立ち上がりました。
そうすると徐々に外注先T社への発注が減るようになりました。
A社はあらかじめ役割分担を決めて、外注先T社にも案内をしていましたので、混乱はありませんでしたが、やはり外注先T社の社長は仕事の減少に落ち着いた気持ではいられませんでした。
T社の社長は、簡単にできるはずがないと思っていた加工業務を、思いのほか早く外注先K社が始めたこと、そして、その立ち上げをMさんが行っていたことにも驚いていました。
外注先T社の社長からK社を見学させて欲しいとMさんに連絡があったのは、ちょうどそんな時でした。
Mさんは、外注先K社の設備や作業現場をくまなく案内し、そして、生産性を高めるためにどのように考えたか、そして不良が出ないようにどのように工夫したかを丁寧に説明しました。
そして、「T社で何度も現場を見せていただいていたからここまで考えることができました」とお礼を述べたのです。
外注先T社の対応が変わったのはそれからでした。
Mさんの仕事を見てMさんへの信頼が大きく高まったのです。
一方のMさんも、自分が実際に工場を立ち上げてみて、外注先T社のこれまでの苦労が良くわかりました。
そのことでお互いの立場を本当に理解することができ、両者の信頼関係を築くことができたのです。
その後は、T社長の提案もあり、定期的にT社とK社、そして他の地域の外注先も含めた勉強会を始めることになりました。
全員で各工場を順番に視察して、良いところは学び、そして良くないところは指摘するという勉強会を行いました。
一通りのすべての外注工場の視察を終えると、それぞれの外注工場で本格的な不良削減活動が始まりました。
Mさんは各社の努力をさらに促すように、毎月の各社の不良率を集計して優秀な外注先をA社で表彰するようにしたのです。
その結果、不良率はどんどん下がり、A社はお客様のハウスメーカーから改善表彰を受けるまでになりました。
そして、Mさんは、いつのまにか各外注工場の経営者や現場責任者から慕われる存在になっていました。
このような結果を出すことができたのは、外注管理担当者のMさんが単に「不良を無くして下さい」という態度から、本当に外注先の苦労を理解し、そして一緒に品質向上と生産性向上をするためにどうすれば良いかを考えるようになったからです。
そうすることで、外注先も心を開き、協力体制を築くことができたのです。
外注管理のポイントは「自社の工程の延長として考えること」とは良く言われることですが、本当にその意味を分かっている外注管理担当者は多くはいません。
A社の事例を見てもそのことが良く分かります。
外注先を本気で支援して信頼関係を築き、そして良きパートナーとなることが、発注する企業にも大きなメリットをもたらすのです。
次回は、「現場観察の重要性」について考えてみましょう。
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この記事の執筆者
澤田 兼一郎
(株式会社みどり合同経営 代表取締役/中小企業診断士)
立命館大学経済学部経済学科卒業、第二地方銀行を経て当社に入社。中小企業を中心に、経営計画や事業計画の実行性を高める、現場主義のコンサルティングを実施。
特に中小建設業、製造業の経営管理体制の構築、実行力を高めていく組織再構築等のノウハウ等について評価を受ける。
犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)
一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。