中小企業庁では、毎年4月頃に中小企業の動向を調査・分析した「中小企業白書」を公表しています。
先般公表された2021年版の白書では、コロナ禍を背景に、中小企業の「危機を乗り越える力」が大きなテーマになっております。
そこで、今回は、白書の記載をもとに、我々の理解・解釈も交えながら、中小企業が危機を乗り越えるために重要だと思われるポイント3点と、弊社でのお手伝いについてご紹介させていただきます。
ポイント①コロナウィルス感染症が与えた影響についての分析
危機を乗り越えるためのポイントその1は、危機が与えた影響について、定量面・定性面の両方からの分析が不可欠だということです。
特に定量面については、コロナ前と比べた売上高の減少などは、各種助成金等の申請においても必要であり、常に意識されていると思います。
では、売上高の変動以外に、何に着目すべきでしょうか。
白書では、損益分岐点比率と有利子負債償還年数を取り上げています。
損益分岐点比率(損益分岐点売上高/実際の売上高)について、白書では、中小企業が大企業と比べて比率が高く、売上の減少により赤字に陥りやすいことを指摘したうえで、まずは平常時に、業態の近い他社と比較して、自社の収益構造がどのような状態にあるのかを把握しておくことが重要としています。
また、このコロナ禍で多くの中小企業が固定費の削減を余儀なくされ、損益分岐点売上高もコロナ以前と大きく変わったことと思います。
目標とする損益分岐点比率(80%など)に向けて、あといくらの売上高が必要となるのか、その水準が現在自社がおかれた経営環境において達成可能なのか(あるいは更なる固定費の削減が必要なのか)など、改めて目標設定を見直す必要がありそうです。
有利子負債償還年数については、コロナ禍における政府系金融機関を中心とした資金繰り支援により、多くの中小企業で有利子負債残高が増加していることが懸念されています。
当然ですが、これらの新規融資や既存借入金の返済猶予による資金繰り支援は将来の要返済額を減らすものではなく、支援を受けた企業は今後の返済に備える必要があるからです。
一方で、コロナ禍で調達した資金の使い道については、白書掲載のアンケート結果 によると、宿泊業以外の全ての業種で「手元現預金の積み増し」を回答した企業の割合が高くなっています。
そのため、借入の総額だけに着目するのではなく、手元現預金では返済できない借入金額の推移に着目して、有利子負債の返済年数をみていくことが重要としています。
その観点でみると、中小企業全体の有利子負債の償還年数は、2020年4-6期に大幅に延びたものの、その後は短くなり、2019年よりもむしろ改善していることがわかります。
まずは、自社の有利子負債返済年数が、コロナの前後でどのように変わったのか、他社と比べてどうかを、点検してみることが重要でしょう。
有利子負債償還年数
(資料:経済産業省中小企業庁『2021年版中小企業白書』第2-1-53図)
ポイント②経営計画の見直しについて
危機を乗り越えるためのポイントその2は、自社分析結果に応じて、経営計画を見直していくことです。
白書では、経営計画を策定しているかどうかで感染症の影響は変わらない一方、経営計画を十分に見直してきた企業の方が、感染症の影響が小さいことを示しています。
売上高の回復においても、下記の図の通り、経営計画を十分に見直してきた企業で回復の割合が大きいことがみてとれます。
計画を「策定すること」ではなく、随時「見直していくこと」の重要性が指摘されています。
また、感染症流行前に経営計画を見直して役に立ったこと としては、「自社の課題が整理された」のほか、「円滑に資金調達ができた」「従業員の雇用を守ることができた」など、経営計画の見直しにより実際に危機回避ができたと見受けられる回答が多くなっています。
(資料:経済産業省中小企業庁『2021年版中小企業白書』第2-1-90図)
ポイント③具体的取組みとしての新事業展開
最後に、危機を乗り越えるためのポイントその3は、計画の見直しにあたり、どのような視点が重要となるかを示しています。
下図は、中小企業が過去の経営危機を乗り越えるうえで最も重要だった取組についてのアンケート結果です。
図の通り、危機に直面してからは、「資金繰りの改善」が最優先事項となるのに対して、危機前の取組としては、「新事業分野への進出、事業の多角化」と回答した企業の割合が最も高いことがわかります。
危機を乗り越えるには、一本足打法的な経営ではなく、事業を多角化し、複数の収益の柱をもっていることが重要であること、それを危機前の平時から取り組んでおくことが重要だということを、経験則的に感じている企業が多いと言えるでしょう。
また、白書では、「事業再構築補助金」を例に挙げて、これらの公的支援策を活用しながら、新事業分野への進出や事業の多角化を前に進めていくことが重要としています。
まとめ
ここまで、2021年版中小企業白書に沿って中小企業の危機を乗り越える力を確認してきました。
まとめますと、事業環境が急速に変化する中、常に自社の分析(定量面・定性面)をアップデートしつつ、支援策も活用しながら、事業構造の多層性や多様性を志向していき、それを経営計画に反映(見直し)していくというサイクルが重要だということが言えるのではないかと思います。
弊社も企業様と一体となってこのサイクルを常に回し続けるサポートをさせて頂いております。
「事業再構築補助金」の申請にも対応しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
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この記事の執筆者
犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)
一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。