『2021年版中小企業白書』重要ポイント②「危機を乗り越えるためのM&A(買い手編)」を解説

前回コラムに引き続き、今回も4月に中小企業庁より公表された「中小企業白書」からのトピックスをみていきたいと思います。

2021年版中小企業白書では、危機を乗り越える力として、M&Aに着目しています。
従来は主に事業承継対策の側から注目されてきた中小企業のM&Aですが、近年では成長戦略の1つとして関心が高まってきていることが示されています。

前回コラム

M&A、買い手側の成長戦略

前回コラムでも、アフターコロナに向けた経営戦略の観点として、事業構造の多層性と多様性を志向し、一本足打法的な経営から脱却することの重要性をお伝えさせて頂きました。
そこで注目されているのがM&Aであり、M&Aによって次なる事業の柱をいち早く構築することで、劇的な環境変化を生き残ろうとする動きが活発になっています。

これまで「M&A」という言葉は特に中小企業にとって、遠いあるいはネガティブなイメージが少なからずあったと思います。

しかし、昨今の経済情勢によりそのイメージが好転的に変わってきています。
今回はM&Aの「買い手側」による成長戦略について解説いたします。

ポイント① M&A、買い手側のチャンス到来

M&Aにおいて買い手側がチャンスを迎えています。
日本経済新聞では「新型コロナを理由として売却案件が徐々に増えている」と5月に報道しています。
また、2月~4月の全体希望件数が前年同期に比べ4.7倍にも拡大していました(同紙報道)。

売却案件が増えることにより、買い手企業にとっては、

①競争相手の減少
②買収金額が抑えられる

といったチャンスが生じています。
特に②については、コロナ禍による先行き不安により、「譲渡金額を下げてでも早く売りたい」といった売り手側の意識変化があります。

このほか、費用面の負担を軽減できる様々な支援策も充実してきています。

ポイント② M&Aを検討する目的​

白書によると、買い手としてM&Aを検討したきっかけや目的は下図の通り、

①「売上・市場シェアの拡大」
②「新事業展開・異業種への参入」
③「人材の獲得」
④「技術・ノウハウの獲得」

が上位に挙げられています。

M&Aを実施することで、①「売上・市場シェアの拡大」といった成長戦略を一つの手段として検討する企業が圧倒的に多い現状となっています。
②については冒頭にも述べた通り、他社の経営資源を活用することで、企業規模拡大や事業多角化を早期に実現しようとする様子がうかがえます。
また、昨今の人手不足や思うように人の採用ができないといった状況により、③のように人材の確保を目的とするM&Aも多くなっています。
④の「技術・ノウハウの獲得」では、例えば製造業において、従来外注先が担っていた工程に関し、M&Aによる技術・ノウハウの獲得に成功したことにより、外注先の廃業という危機に対応できた事例などが見られます。

また、中小企業白書ではM&A実施企業(2015年に買い手としてM&Aを実施した企業)の方が、実施しなかった企業よりも売上高成長率や営業利益成長率が高いという結果が示されております。
近年M&Aの業績への貢献・有用性が認知されてきた点も、多くのM&Aを後押ししているものと思います。

買い手としてM&Aを検討したきっかけや目的

資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」
(注1.)M&Aの実施意向について、「買い手として意向あり」、「買い手・売り手とともに意向あり」と回答した者に対する質問。
(注2.)複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。
資料:経済産業省中小企業庁『2021年版中小企業白書』第2-3-68図

ポイント③ M&Aを実施する際の重要確認事項

次に、下図は買い手としてM&Aを行う際に重視する確認事項についてみたものです。
「事業の成長性や持続性」が最も高く、「直近の売上、利益」「借入等の負債状況」と続いており、その後の「経営陣や従業員の人柄や意向」「既存事業とのシナジー」までが全体の半数を超えています。

「直近の売上、利益」や「借入等の負債状況」などの財務項目は水平統合の際により重視され、「事業の成長性や持続性」「既存事業とのシナジー」など事業そのものの項目は垂直統合の際により重視される傾向にあります。
いずれの場合にも、M&Aに際してリスク対策を行いたい場合は、実施前に専門家によるデューデリジェンス(DD)を行うことが有用です。

また、費用については「事業承継・引継ぎ補助金」などの支援策もありますので、ぜひ参考にしてください。

買い手としてM&Aを実施する際に重視する確認事項

資料:(株)東京商工リサーチ「中小企業の財務・経営及び事業承継に関するアンケート」
(注1.)M&Aの実施意向について、「買い手として意向あり」、「買い手・売り手とともに意向あり」と回答した者に対する質問。
(注2.)複数回答のため、合計は必ずしも100%にならない。
資料:経済産業省中小企業庁『2021年版中小企業白書』第2-3-70図

まとめ

弊社では、㈱みどり未来パートナーズをはじめとしたグループ内外のM&Aアドバイザーと密接に連携しながら、経営コンサルタントとしての第三者的な視点で、M&A戦略の策定、(買収候補先の)財務・事業デューデリジェンスの実施、事業計画の策定やM&A後の統合作業(PMI)などをサポートさせて頂いております。

ぜひお気軽にご相談下さい。

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この記事の執筆者

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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