今回も前回にひきつづき事業譲渡についてみていくことにしましょう。
前回お話ししたように、事業譲渡の場合、当事者間で譲渡対象の資産や負債の範囲を自由に決めることができます。特に買い手にとって、欲しい部分だけを手に入れられることは大きなメリットです。さらに、法的には資産や負債を個別に譲渡するという形になるので、買い手は簿外債務や偶発債務のリスクを避けることができます。この点からみれば、買い手にとってはいいとこ取りができる方法といえるのではないでしょうか。
そのかわり、権利や義務が当然に移転するわけではないので、譲受会社は、取引先との契約や、従業員の雇用関係事務、不動産の登記などをすべてやりなおさなければなりません。
もちろん、免許や許可も引き継げませんから、建設事業の売買であれば、譲受会社がもともと持っている場合は別として、建設業許可を取りなおすことになります。経審に関しては、工事の実績や評点を譲受会社へ引き継げる場合もあるので、事前に所轄官庁の取り扱いについて調べてみる必要があるでしょう。ただ、建設業では、とかく経審ばかりに目がいき建設業許可のほうを忘れてしまうことがありますが、許可を取りなおすとなると時間がかかりますから、この点にはくれぐれも注意が必要です。
また、株式取得の場合と同様に、買い手は買収資金を用意しなければなりません。このように、事業譲渡には、先にお話ししたメリットがある反面、大変な手間と費用がかかるというデメリットもあります。
今回は、主に買い手にとっての事業譲渡のメリットとデメリットについて考えてみました。次回からは、事業譲渡を行う場合に会社法上どんな手続が必要になってくるのかについて、少し詳しくみていきたいと思います。
M&A・企業組織再編部門
公認会計士 原田裕子
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