5.事業譲渡

前回までのところで、中小企業のM&Aでは、手続の簡単さから株式取得(譲渡)がもっとも使われる方法であるとお話してきましたが、場合によっては事業譲渡のほうが使いやすいケースもあり、これもよく利用される方法です。

 

なお、会社法で以前(商法上)の「営業」という言葉が「事業」に統一されたので、ここでは「事業譲渡」としていますが、中身は従来の「営業譲渡」と同じと考えていただいてかまいません。今回から、この事業譲渡についてみていこうと思います。事業譲渡は、会社の行っている事業を切り分けて売買する方法です。事業部門、工場、店舗、営業エリアなどといった単位ごとに売買する場合もあれば、事業のすべてを売買する場合もあります。

 

では、事業譲渡はどんな目的で使われるのでしょう。もちろん理由はさまざまだとは思いますが、ひとつには経営を効率化する手段として使われることがあります。

 

たとえば、売り手会社は、不採算事業を切り離して売却することによりその事業から撤退し、あるいは関連事業を売却することで、コアになる事業に集中することができます。また、譲渡代金で残った事業をテコ入れすることもできますね。反対に、買い手側の理由としては、事業用資産や人材、技術・ノウハウ、営業エリアなどを手に入れることで事業規模を広げる、あるいは新規の事業へ参入するなどが考えられます。

 

この方法は、再生型のM&Aのときにもよく使われます。

 

たとえば、債務超過ではあるけれど、よい人材がたくさんいて、他社にはない独自の技術をもつ建設業の会社があるとします。別の建設業の会社がこの会社を欲しいと思っても、債務超過ですから会社をまるごと買うとなれば二の足を踏むでしょう。

 

このようなとき、事業譲渡という方法を使えば、買い手は事業のよい部分だけを譲り受けることができます。そして、売り手会社は、譲渡代金で残った負債の一部を返済したあと清算します。こうすることで、今の事業は譲受会社で新しいスタートをきり、従業員の雇用も守ることができます。

 

次回は、事業譲渡のメリット、デメリットについて考えてみることにしましょう。

 

M&A・企業組織再編部門
公認会計士 原田裕子
執筆者ご紹介 → http://ct.mgrp.jp/staff/

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