前回は、M&Aの手法としての株式取得の意義とそのメリット・デメリットについて考えてみました。つづく今回と次回の2回で、株式取得の方法と会社法が定める手続についてみていこうと思います。
1.株式取得の方法
ある会社の経営権を手に入れるためにその会社の株式を取得しようとする場合、その方法としては、主に大きく分けて次の2つの方法があります。
(1)会社が既に発行している株式を取得する方法
ひとつは、会社が既に発行している株式を取得する方法で、通常はこの方法がとられます。対象とする会社が上場企業であれば、市場で株式を買い集めるか、あるいは市場外で短期間に大量の株式を買い集めたいときには原則として株式公開買付(TOB)によって行われることになります。TOB制度(金融商品取引法で決められています)の内容はここでは省略しますが、ここ数年、敵対的買収とセットでニュース報道されることが多くなりTOBは耳慣れた言葉になってきました。
また、対象とする会社が上場企業でない場合には、既存の株主から直接取得する方法が基本です(相対取引といいます)。特に中小企業の場合には、買い手がその会社の少数の大株主(オーナー社長やその一族)から100%の株式を譲り受けるケースも多いのではないかと思います。この場合のオーナー側の事情としては、後継者がいないため第三者へ会社を売却するケースなどが考えられるでしょう。
(2)募集株式の第三者割当増資による方法
もうひとつは、買い手が、第三者割当増資によって、会社が新たに発行する株式(保有している自己株式を処分する場合を含みます)を取得する方法です。M&Aの場合には、経営権を取得させるために買い手のみに集中して募集株式の割当てが行われることになります。
この方法は、買収対象会社に資金が必要な場合に行なわれますが、対象とする会社に増資の資金が注入されるので、既存株式の取得の場合と比べて会社の財務体質は強まります。また、既存の株式の取得の場合であれば株式の対価は売り手に渡ってしまいますが、募集株式の引受の場合には、支配権を手にいれた後に自らが払い込んだ資金についても運転資金としてコントロールすることが可能です。ただし、この方法のみの場合には既存株式が存在しますから100%支配というわけにはいきません。
2.株式取得の手続
(1)会社が既に発行している株式を取得する方法
会社法では、会社は原則として株券を発行しないものとされました。そのため、株式譲渡の手続は、株券発行会社(株券の発行を定款に定めている会社)の場合には株券の交付が必要となりますが、それ以外は基本的に株主名簿の名義書換のみです。
ただし、会社法の施行前から存続している会社が株券発行について定款に何も定めていない場合には、定款に「株券発行の定め」があるとみなされて「株券発行会社」となるので注意が必要です。中小企業(特に同族企業)では株券を発行していないケースも多いと思いますが、株券を発行していなくても「株券発行会社」に該当する場合、株主が株式を譲渡しようとするときには、会社は株券を発行するか、あるいは定款を変更しなければなりません。
また中小企業では、会社にとって好ましくない人に株式が譲渡されないように株式に譲渡制限が付けられているケースが多くみられます。このような譲渡制限株式を譲渡するときには、取締役会(取締役会設置会社)あるいは株主総会の承認が必要になります。もっとも、中小企業のM&Aの場合には、少数の大株主から当事者間の合意のうえで取得することが前提ですから、通常のケースであれば承認が問題になることはまずないでしょう。
(2)募集株式の第三者割当増資による方法
以下に、主な手続の流れを簡単に示してみます。
(A)募集事項の決定(募集株式の数、払込金額、払込の期日または期間など)
(B)募集事項の株主への通知または公告
(C)募集株式の申込・割当・引受け
(D)払込・効力発生
第三者割当増資の基本的な手続は上記のとおりですが、非公開会社(発行するすべての株式に譲渡制限の付けられている会社)の場合には省略できる手続もありますし、また、引き受け手が1人であれば不要な手続もあります。次回は、この第三者割当増資の手続きの内容についてもう少し詳しくみていきたいと思います。
M&A・企業組織再編部門
公認会計士 原田裕子