不安定な経済状況に対応する方法 ~ファイブフォース分析で考える事業の多様性・多層性~【後編】

世界的な情勢不安が続くことが予測される中、中小企業がこの難局を乗り切るためには自社を取り巻く環境を見定め、脅威に先回りして対応していくことが重要です。
前編では、ファイブフォース分析を活用しながら、特定の事業や顧客への依存、仕入先への依存状態など、自社の脅威や課題を抽出し、多様性・多層性を志向していくことの重要性を解説いたしました。

後編ではファイブフォース分析の活用事例として、荒波に負けない経営の舵取りをしている地域の中小建設工事業をご紹介します。

地域建設業D社の概要

D社は、東北地方にある完成工事高約7億円の地域の建設企業(土木・建築)です。
建設事業のほか、現在は産業廃棄物の収集運搬や、病院・介護施設への食事の提供(セントラルキッチン)を営んでいます。
ここでは、もともと地元K市の土木・水道工事をメインとしていたD社がエリア外への積極的な展開や、建築工事への参入、そしてセントラルキッチンへの参入など、事業を多様化・多層化していった取り組みについて、同社のファイブフォース分析とも絡めて説明したいと思います。

M社の部門間対立(両者の言い分)

建設事業での取り組み

記述の通り、D社の従来からのメイン事業は地元K市の土木工事・水道工事(元請受注)でした。
県内でも有数の重機と人員を有し、自社施工ができることが最大の強みで、他社がレンタルしているような機材についても積極的に投資し、低コストで施工できる体制を築いてきました。

地元K市の工事には、新規参入や代替品の脅威は特に見られませんが、市工事への依存度が高い状況は、その年度の公共工事の発注量に左右され、長期的には縮小していくことが潜在的なリスクとなっていました。
そこで、D社はエリア外への積極的な展開を図っていきます。

建設業界では厳しい時代に固定費の削減の一環として、直営部隊を持たない企業が増えており、施工技能をもった人員や機材の不足が業界全体の脅威となっていました。
そこで、エリア外でもD社の直営部隊が出動できる範囲で、他社の下請工事を積極的に取りに動いたことで、安定した受注量の確保につながりました。

また、従来からの土木・水道工事に加えて、建築工事も強化しています。
一例ですが、後述する自社のセントラルキッチンでの経験値に基づき、他のセントラルキッチンや介護施設の設計施工へも展開しています。

現在は土木水道工事においても、県工事の入札(元請受注)に向けて取り組んでいるところです。
そのため、ICT重機やドローン等、生産性向上に向けた設備投資と、人への継続的な投資(育成・資格取得等)を行っています。
2024年問題等、業界全体として人手不足が脅威となる中で施工部隊強化のため、外国人材や研修生の受け入れも行い、人材確保を進めています。

セントラルキッチンへの新規参入

D社ではさらに病院・介護施設を対象としたセントラルキッチンの運営をスタートさせました。
地域の高齢化により病院や介護施設の建設は増えていますが、小規模の介護施設等では、厨房施設を自前でもつことが困難です。
地元の介護施設からこのような状況に関する相談を受けたことがきっかけで、地域の困りごとを解決したいという経営者の想いからスタートしました。

立ち上げ後は地道な営業活動により徐々に取引先を増やしています。
現在はこの新規事業が収益貢献になっているだけでなく、自社での運営が他のセントラルキッチンの設計施工という本業に活かされているなど、シナジー効果を発揮しています。

D社の成功ポイント

事例の通り、D社は建設事業および新規事業の両面で、事業の多層性・多様性を図ってきました。
その結果、リスク分散を図り将来の脅威への対応力を高めています。

重要なことは、D社が単に自社の脅威に対応しているだけでなく、自社の強みをベースにそれらを自社の機会とも捉えていること、また、当該分野が本当に「自社にとってビジネスになりうるか」を慎重に検討していることです。
その上で最終的には新たなビジネスへの投資に大胆なリスクテイクを行っています。

さらに、事業の立ち上げまでには様々な問題が表面化しますが、従業員とのコミュニケーションを通じて、答えがない課題や問題に一つひとつ解決策を見出し、それを実行していく機動力や行動力の高さがあります。

この背景には、経営者が自社の事業環境について常に頭の中でアップデートしながら従業員に伝えていることで、新たな取り組みの必要性の理解につながり、全社一丸となって取り組める要因になっていると考えられます。

本記事は『近代中小企業』2024年2月号に掲載して頂きました。

「近代中小企業」
発行:中小企業経営研究会
https://www.kinchu.jp

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この記事の執筆者

澤田 兼一郎
(株式会社みどり合同経営 代表取締役/中小企業診断士)

立命館大学経済学部経済学科卒業、第二地方銀行を経て当社に入社。中小企業を中心に、経営計画や事業計画の実行性を高める、現場主義のコンサルティングを実施。
特に中小建設業、製造業の経営管理体制の構築、実行力を高めていく組織再構築等のノウハウ等について評価を受ける。

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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