『2022年版中小企業白書』重要ポイント「自己変革に向けた伴走支援」を解説

中小企業庁では、毎年4月頃に中小企業の動向を調査・分析した「中小企業白書」を公表しています。
2022年版の白書では、コロナ禍や資源価格高騰などの外部環境に直面する中小企業の「自己変革」が大きなテーマになっております。

そこで今回は、白書の記載をもとに、我々の理解・解釈も交えながら、中小企業が自己変革を実現するために重要だと思われるポイントと、弊社でのお手伝いについてご紹介させていただきます。

中小企業の自己変革の必要性

中小企業を取り巻く経営環境は、2年に及ぶコロナ禍の影響や原油・原材料価格の高騰、部材調達難、人材不足に伴う賃金上昇圧力といった供給面の制約もある中で、依然として厳しい状況にあります。
そんな中、コロナ禍で持続化給付金等の給付金や金融機関融資による資金調達により、手元資金に比較的余裕がある中小企業も増えていると見受けられます。
しかし、コロナ流行以前と比べて借入金月商倍率が上昇しており、借入金の返済余力が低下している可能性もあるため、企業は今後の返済や金利上昇に備えておく必要があります。

中小企業向け貸出残高の推移(金融機関別)

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-1-43図)

業種別に見た、借入金月商倍率の推移

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第1-1-27図)

白書では、こういった今後予想される厳しい状況に備えるために、中小企業の「自己変革」の実現が重要であるとしています。

例えば、自己変革の一つとして「事業再構築」が挙げられます。

下図によると、コロナ禍において事業再構築を実行し、既に売上げ面での効果を実感する企業も存在しています。
また、アンケート調査では、早期に取り組んだ企業ほど既に効果を実感する企業も存在しています。

事業再構築は、資金や人材、計画立案などでハードルが高いことは事実ですが、「事業再構築補助金」などの政策による後押しがあるため、今こそ積極的にチャレンジしていくべきでしょう。

事業再構築による売上げ面での効果

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-1-52図)

自己変革に向けた重要な取り組み(1)「ブランドの構築・維持」

白書には、事業再構築のように自己変革に向けた様々な取り組みが紹介されておりますが、その具体策について、今回、弊社としては特に「ブランドの構築・維持」「能力開発等の人材投資」に注目してご紹介いたします。

この2つは、現在の事業をベースとして積み上げていくため、比較的取り組みやすく、効果が出やすい点が特徴です。

ブランドの構築・維持に取り組むことの効果として、価格決定力の向上が挙げられます。
直近の物価高騰などにより、自社商品の価格を据え置いていたのでは経営は立ち行かなくなるため、物価高騰の影響を取引価格へどれだけ転嫁できるかは今後の最重要課題となってくるでしょう。

ブランドの構築・維持を図る取組の実施有無別に見た、取引価格への寄与

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-2-5図)

図が示す通り、ブランドの構築・維持を図る取組を行っている企業は、自社ブランドが取引価格へ寄与している割合が高くなっています。

価格競争や、物価高騰の影響を取引価格に転嫁できないことにより収益力が低下してしまう事態を避けるためにも、ブランドの構築・維持に対して積極的に取り組んでいく必要がありそうです。
また、「ブランドの構築・維持」の具体的な取り組みとしては、「外部へのブランドメッセージの発信」「自社ブランドの立ち位置の把握」「ブランドコンセプトの明確化」「従業員へのブランドコンセプトの浸透」などが効果ある取り組みであると示唆されています。

こうした取り組みは、価格決定力の強化や販路拡大のみならず、そのブランドに惹きつけられることにより「人材の獲得」にも効果が現れているという事例もあります。

ブランドの構築・維持のための取組の実施状況

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-2-6図)

自己変革に向けた重要な取り組み(2)「能力開発等の人材投資」

次に「人材投資」についてです。
中小企業が重視する経営資源は「ヒト」であり、従業員の仕事に対する意欲向上の観点からも、従業員の能力開発に取り組むことが重要となっています。

計画的なOJT研修及びOFF-JT研修の実施状況別に見た、売上高増加率

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-2-31図)

上の図は、計画的な研修の実施状況別にみた、売上高増加率を示しています。
OJT研修とOFF-JT研修の使い分けや効果が出やすい研修の内容を決定することが難しく、実施に踏み切れない中小企業も多いと思われます。
ですが、計画的なOJT研修、OFF-JT研修いずれも実施している企業では、売上高増加率が最も高くなっています。

OJT、OFF-JTいずれも実施している企業は売上高増加率が9.5%にも上りますが、いずれも実施していない企業(3.4%)に比べると6%以上もの差が出る結果となっています。
この背景には、下図の通り、従業員の仕事に対する意欲の差が生じていることが明らかであるため、一時的な効果にとどまらず、長期的に効果が期待できる投資であるといえます。

このように、従業員の能力開発を地道に行うことが従業員の意欲の向上、そして企業の成長・変革につながります。

能力開発に対する積極性別に見た、従業員の仕事に対する意欲

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-2-19図)

自己変革への「5つの障壁」​

最後に、今回取り上げた自己変革の取り組みを中小企業が実行し成果を上げるために、突破しなければならない5つの障壁をご紹介します。
下記の図の通り、自己変革の5つの障壁が挙げられています。

自己変革への「5つの障壁」

(資料:経済産業省中小企業庁『2022年版中小企業白書』第2-3-89図)

①見えない
企業内部の可視化が出来ておらず、本質的な課題を見極めるための前提条件が整っていない

②向き合わない

経営者が現実を直視せず、優先課題の適切な設定と課題解決に向けた施策の落とし込みができない

③実行できない

組織内外のしがらみや経営者の心理的障壁等を捉えておらず、課題解決策の実行がされない

④付いてこない

現場の巻き込みが不十分で、現場レベルに即した取組みとなっておらず、誰も当事者意識を持って課題解決に臨まない

⑤足りない
課題が明確となり、リソースの確保と意欲の醸成もできたが、課題解決のための知見や経験が足りない

これらの障壁は、社内の人間関係などと密接に結びついているため、自社内で解決することは非常に難しい課題でもあります。
そのため白書では、中小企業等がこれらの「5つの障壁」を乗り越えるためには、第三者である支援者・支援機関が、経営者等との信頼関係を築き、対話を重視した伴走支援を行うことが有効としています。

 

私どもみどり合同経営では、中小企業で都度発生する様々な課題に対して、単にソリューションや短期的なノウハウを提供することよりも、長期的に企業が生き残るための経営力の向上のために、経営者の声に傾聴、共感しつつ、一緒に考えていくことをコンサルティングのモットーとしております。

また、課題への取り組みを具体的に進めていくためには、経営者のみならず、幹部や従業員を巻き込んでいくことが必要です。
企業内部での「信頼感の醸成」をお手伝いしながら、プロジェクトのゴールまでの伴走支援を遂行いたします。お気軽にご相談ください。

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この記事の執筆者

越前 忠司
(株式会社みどり合同経営/中小企業診断士)

横浜市立大学国際総合科学部卒業後、証券会社にて個人・法人営業、取締役を経て当社へ入社。

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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