関係構築による取引深耕の成功例【事例からみる「中小 B to B 企業のマーケティング」・第4回】

前回まで、電子回路の基板製造を行っているX社を事例に、B to Bマーケティングの重要性について考えていきました。
今回からは、金属切削加工を行うY社を事例として、X社の課題であった取引先との関係構築について、Y社ではどのように関係性を築いているのかを見ていきたいと思います。

Y社は、金属部品の切削加工を行う企業です。高い技術力を生かした、非常に小さな単位までの部品加工を行っています。
取引先は、大手メーカーが多く、医療機器などの精密加工が要求されるものから、カメラに使用されるモーター、自動車用のエアコンに使用される部品など、様々な製品が最終製品として並びます。
Y社の強みや得意分野としては、上述した超精密加工であり、他社が断るような難度の高いものにチャレンジしていく姿勢が取引先から評価されております。
高難易度の加工を可能とする背景には、高性能のマシニングセンターへの積極的な設備投資や非常に高い検査技術を有していることが挙げられます。

第三回までのX社の事例では、取引先との依存関係において、「関係」をマーケティングとして捉えるのであれば、双方の距離感(依存度)を戦略として段階的に考える必要があり、互いの距離感に差がある状態であれば、早い段階で、依存を回避するための意思決定を行う必要がありました。

では、Y社の取引先のうち、売上のうち約4割を占めるT社(自動車関連大手部品メーカー)との関係構築について見ていきます。

T社には、もちろんY社以外の発注先(Y社の競合他社)があります。
その中でY社のポジションの変化を追っていきたいと思います。
当初のポジションは、T社にとって「困ったときのY社頼み」というように、難しいものだけが発注されるといった立ち位置でした。
もちろん、他社ではできない難易度のものなので、利益率は高いものばかりでしたが、それではコンスタントに金額を稼ぐことは難しい状態でした。

そこでY社は、中難易度のものも含めて発注してもらうことで、T社からの受注を増やすことを考えました。
もともと高難易度の製品を得意とするので、中程度の難易度のものであれば、競合他社よりも、品質の良さを維持したまま、コストダウンに対応が可能である点から、積極的な技術提案を通じて、受注量を増やしていきました。
そして現在では、T社にとってメイン発注先のポジションを獲得しており、品質とコスト競争力から、T社にとってY社は手放せない先となっています。

Y社の描いた戦略としては、自社の最大の強みである技術力を生かし、技術提案を積極的に行うことで、買い手であるT社のニーズに応える傍らで、T社にとってY社がなくなると、このコストでこの品質を作れる先がいない、という売り手であるY社が逆に依存関係の主導権を持てるように誘導することにありました。

こうした力関係の構築には、もちろんY社の持つ高度な技術力という強みが根本にあることはそうなのですが、常にT社とY社の間で、積極的な提案を通したコストダウンに向けての議論が双方で行われていることが関係を強化していくポイントとして挙げられます。

ちなみにこの戦略を進める中で、Y社にとって以前からの課題解決につながりました。
試作段階で量産時のつくりやすさの観点が見落とされがちであり、いざ量産を始めると非常に手間がかかってしまう、という課題です。
これを試作段階で技術提案を積極的に行い、双方のコミュニケーションを円滑化させることで改善につなげることができるようになりました。

また、技術提案によるコストダウンを一度に出すのではなく、将来的なコストダウン要請も見据えて、今後のコストダウンの余力を残した見積や提案内容としていることもY社の強み(強かさ)と感じます。

この事例から、単なる取引慣行として継続的な取引を続けるだけでなく、長期的かつ戦略的な意図をもって積極的に取引の継続性が維持されることで、相互依存性や組織性を高め、戦略的パートナーシップを形成することにつながることがわかります。

次回は、Y社の事例で、取引先のうち、「技術的な難易度の高さ」が求められるD社との関係構築について見ていければと思います。

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