Y社の顧客満足による取引促進【事例からみる「中小 B to B 企業のマーケティング」・第5回】

前回は、金属切削加工を行うY社が既存取引先T社との関係をどういう戦略に基づいて深めていったかを確認してきました。

今回は、Y社の取引先のうち、より「技術的に難易度が高い部品」が求められる企業との新しい関係構築について、Y社の狙いを見ていければと思います。

新たな関係構築の前に、Y社はまず、マーケティングの観点から依存回避を考えました。
リスクヘッジのために、取引の多いT社とは別の業界や市場を対象とする顧客との取引を増やすことです。

同業界、同市場の依頼ばかり受けていては、その業界や市場が低迷したときに、直に影響を受けてしまいます。
Y社の中で一番取引が多いのは、前回お話した自動車関連大手部品メーカーのT社です。T社以外との取引を考えるうえで、T社と同じ業界はできる限り避けたいところでした。
そこで目を向けたのが、医療機器や光学機器といった分野であり、Y社が自社の一番の強みとして認識している高難易度の切削加工がフルに活用される分野です。

製品自体も小ロットではあるものの、付加価値の高い製品が中心で、利益率も高いことが挙げられました。
とはいえ、取引口座のない全くの新規先はハードルが高いため、Y社は以前から取引口座はあるものの受注実績が少なかったD社(医療機器や光学機器の最終製品大手メーカー)との取引強化を考えました。

取引強化にあたっては、T社との関係構築と同様に、持っている技術力が高いという強みを生かし、積極的に試作提案や技術提案を続け、顧客のニーズに応じた製品を提供し、継続的な関係を築いていきました。
Y社が意識して取り組んだのは、メーカー選定の意思決定者である購買担当者との関係づくりに加えて、設計担当者との関係を構築していくことです。
D社では、設計担当者は機種ごとに分かれていますので、通常は1つの機種に採用されても、別の機種への水平展開にはつながりにくいという現状がありました。

そこで、試作依頼に対し、社長のほか、実際の試作担当者や検査主任が顧客(設計)との打合せに訪問し、設計担当者と仲良くなりながら、困り事を拾いあげ、丁寧にフィードバックしていくという地道な活動を続けました。
特に、若い設計担当者には、切削技術にあまり詳しくなく、そのため安全を見てオーバースペックに書かれた図面も多々あることがわかり、その場合は単に図面通りの試作をするのではなく、担当者の意図を汲みつつ、仕様を簡素化する提案を心がけました。

その結果、設計側にとって使いやすい(意図を汲んだ技術提案がされるなど)と設計者の間で評判になり、途切れなく新たな試作の依頼につながるようになりました。
さらには、当社の技術提案により、品質が安定し、その分、コストも抑えられることを、わかりやすい言葉とデータで示していくことで、購買担当者の理解も得られるように工夫しました。
このようにしてY社は切削加工メーカーとして、D社の中でのポジションを確立していきました。そして今では一番のシェアを獲得しています。

この事例でのポイント

この事例でのポイントは、下記の2点ではないかと思っています。

①既存得意先からの依存回避に有効であり、かつ到達可能なターゲットの選定
②B to Bの取引では、意思決定者が複数となり、その分プロセスが複雑になる中で、様々な情報を収集し、相手の立場や状況に寄り添った対応を、組織として取り組んできたこと

思わぬ効果もありました。大手メーカーであり、難易度の高い製品を中心とするF社との取引がそれだけあるということが、「高い技術(提案力)を持つY社」として他メーカーにも知れ渡ることになり、国内のみならず、海外のメーカーからも新規で声が掛かるようにもなりました。

嬉しい悲鳴でありますが、引き合いが増えたことで、自社のキャパシティをいかに拡大するかということがY社の当面の課題となっています。

次回は病院や介護施設に食事を提供する給食事業を営むZ社の取引先関係構築の事例をご紹介いたします。

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