会社分割の場合に労働者保護手続が必要になることには前回少しだけ触れましたが、今回は、この労働者保護手続についてみていきたいと思います。
会社分割では、吸収分割承継会社(または新設分割設立会社、以下、承継会社等)に引き継がれる権利義務の範囲は、吸収分割契約(または新設分割計画、以下、分割契約等)によって決まりますが、従業員との労働契約もその例外ではありません。
従業員からすれば、会社分割後に自分が、分割後の会社と承継会社等のうち、どちらの会社に所属してどんな仕事をすることになるか、という重大な問題は、分割契約等の内容次第ということになります。
たとえば、ある会社が、会社分割により建設事業を他社へ譲渡することになり、それまでずっと建築の仕事をしていた従業員が、分割後の会社に残って経験のない飲食業の仕事をするように言われる。これは極端な例だとしても、似たようなケースはあるかもしれません。そこで、会社分割では、「会社分割に伴う労働契約の承継に関する法律」(労働承継法)により、一定の場合には従業員が会社に異議を述べられるように、分割会社のとるべき手続が決められています。
分割会社は、関係する従業員のうち、次の(1)と(2)の人に対して、労働契約が承継されるかどうか、異議申出期限日などを、原則として、分割契約等を承認する株主総会の日の15日前までに書面で通知しなければなりません。
(1)その事業に主に従事している人(承継されるかどうかに関係なく)
(2)その事業に主としては従事していないけれど承継される人
ここで、注意すべきは、(1)と(2)のうち異議をいえるのは次の(A)と(B)の人だけ、という点です。
(A)主にその事業に従事していたのに承継されないとされた従業員
(B)その事業に主としては従事していなかったのに承継されるとされた従業員
そして、異議のある人が会社に申し出ると、(A)の従業員の場合は承継されることになり、(B)の従業員の場合は分割後の会社に残ることになります。
しかし、できれば従業員からの異議の申出という事態は避けたいものです。そのためには、書面で通知するより前に、会社は従業員一人一人と労働契約の承継の内容について十分に話し合う必要があるでしょう。
次回は、会社分割の際の債権者の保護について考えてみることにしましょう。
M&A・企業組織再編部門
公認会計士 原田裕子
執筆者ご紹介 → http://ct.mgrp.jp/staff/