会社分割に、新設分割と吸収分割の2つの方法があることは、前回お話ししたとおりですが、会社法は、この2つをはっきりと分けて規定しています。そこで、具体的な手続について考える前に、新設分割と吸収分割の意味について、今回もう一度確認しておきたいと思います。
新設分割は、分割する会社(分割会社)がみずから新しい会社をつくって、会社の全部または一部をその会社(新設会社)に引き継がせる方法でした。この方法は、事業の再編によく利用されます。たとえば、いくつかの事業部門を持つ会社が、新設分割により特定の事業部門を分社化する、あるいは、すべての事業部門を分社化して分割会社自身は持株会社となる、などのケースが考えられます。
一方、吸収分割は、会社の全部または一部を既存の他社に引き継がせる方法でした。これは、もちろん企業グループ内の事業統合にも使われますが、むしろ第三者への事業の譲渡や資本提携など、M&Aの手段としてよく利用される方法です。
当事者が自分(自社)だけの新設分割と、相手のある吸収分割。その手続もおのずと違ったものになります。ひとつ例を挙げてみましょう。新設分割の場合は分割計画でその内容を決めますが、吸収分割の場合は分割契約になります。分割計画は会社設立に関する事項を含み、かたや分割契約は、分割会社と譲受側の会社(承継会社)の両方の事項を含みます。会社法がこの2つを明確に分けて規定しているのは、随所にこのような手続上の違いがあるためです。
とはいっても、基本的な枠組の部分では、新設分割と吸収分割の手続に大きな違いはありません。分割計画と分割契約、どちらも原則として株主総会の特別決議による承認が必要です。また、どちらの場合でも、債権者保護手続や労働者保護手続が求められ、反対株主には株式買取請求権が認められます。それぞれの手続のスケジュールも、若干違いはあるものの、ほぼ流れは同じです。
それでは、今回お話しした新設分割と吸収分割の違いも少し意識しつつ、次回からは、会社分割の基本的な手続の中身について考えてみることにしましょう。
M&A・企業組織再編部門
公認会計士 原田裕子
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