今回は、DCF法の具体的な今回は、DCF法の計算のプロセス((1)~(6))についての後半です。
まずは前回の内容を思い出してみましょう。前回は、(1)事業計画の作成、(2)各期のフリー・キャッシュフローの計算方法についてお話ししました。今回は、(3)のターミナル・バリューの計算からみていくことにしましょう。
(3)ターミナル・バリューの計算
DCF法で事業計画を作成する期間はふつう長くても10年くらいです。それ以上先の将来について信頼性の高い予測をするのは現実には不可能なので、細かい分析をしてもほとんど意味がありません。そこで、事業計画をつくる期間(予測期間)以降の価値については、ひとまとめに考えて計算を単純にしてしまいます。このひとまとめにした価値をターミナル・バリューと呼んでいます。
ターミナル・バリューの考え方はいくつかあります。もっともシンプルな方法として現在よく使われるのは、予測期間が終了したあと一定の成長率(永久成長率)でキャッシュフローが成長するとみなして計算する方法です。この方法では、ターミナル・バリューの金額を、予測最終年度の翌年のフリー・キャッシュフロー(最終年度のフリー・キャッシュフローに調整を加えて計算します)を、(割引率 – 永久成長率)で割ることによって求めます。
では、ここで、ちょっと建設業の場合の永久成長率について考えてみましょう。
国土交通省の「平成十八年度建設投資見通し」によると、建設投資額は、平成四年度の84兆円をピークとして平成十八年度には52.9兆円まで落ち込んでいます。これは、平成四年度の約63%の水準です。この建設市場の縮小の原因が景気によるものではなく社会的構造の変化によるとみるならば、今後もこの市場の縮小傾向は続くものと予想されます。
しかし、ひとくちに建設業といっても土木と建築の市場は違いますし、同じ建築でも商業ビルと住宅では異なります。建設業の仕事の内容は多種多様であり、その中で今後縮小していく分野もあれば、住宅のリフォーム産業など今後成長が見込める分野もあるでしょう。さらに、同じ分野であっても年々売上の落ち込んでいっている会社がある一方で、その会社独自の強みを発揮して売上を伸ばしている会社もあるはずです。そしてこのような独自の強みを持つ会社が、M&Aの買い手にとっての魅力のある会社ということになるのでしょう。
したがって、成長率を設定するときには、市場の成長性と同時にその会社独自の状況などの両面から考える必要があると思います。しかし、十年以上先の成長率について正確に予想するのは不可能ですから、永久成長率はある程度の幅をもたせて考えたほうがいいかもしれません。また、いくつかの異なる分野で仕事をする会社であれば、それぞれについてまったく違う成長率を設定すべきケースもあるかもしれませんね(このケースでは、キャッシュフローの予測自体を別に行う必要があると思いますが・・・)。
ただ、予測期間については売上の成長を前提としている会社でも、ターミナル・バリュー算定の際の永久成長率は低めに置くのが通常であり、最終年度のキャッシュフローが同額でずっと続くと仮定する(永久成長率を0%とする)方法も簡便法としてよく使われています。
(4)事業価値の計算
各年度のフリー・キャッシュフローとターミナル・バリューが計算できたら、今度はそれを現在価値に割引いて合計しましょう。1年目、2年目、3年目・・・10年目のフリー・キャッシュフロー(FCF)をそれぞれFCF1、FCF2、FCF3・・・FCF10、資本コストをrと表すと、下記計算式となります。
これに予測期間以降のターミナル・バリューの現在価値を加えます。ターミナル・バリューは10年目時点の価値なので、これを(1+r)10で割って現在価値に直し10年間のキャッシュフローの現在価値合計に加えたものが事業価値です。
(5)企業価値の計算
(4)で計算した事業価値は、あくまで現在おこなっている事業の価値です。でも、ほとんどの会社には、ふつう、事業には使われていない遊休資産や有価証券、あるいは余裕資金などがありますよね。そこで、企業全体の価値を求めるためには、事業価値に遊休資産などの事業に直接かかわりのない資産の処分価値を合計する必要があります。
(6)株主価値の計算
(5)で求めた企業価値は、有利子負債の形で資金を提供している債権者と株主のものですから、ここから債権者の権利である有利子負債額(時価)を差し引いた残りが株主の取り分(株主価値)です。つまり、(5)と(6)のステップにより、株主価値=事業価値+遊休資産など – 有利子負債額、と計算できます。そして、この株主価値を発行済株式総数で割ったものが理論株価となります。
前回と今回の2回でDCF法による株主価値の算定のプロセスについてみてきました。企業評価においてDCF法は基本となる評価方法です。ただし、DCF法にも欠点があります。その企業や事業の内容についての知識がそれなりに必要であり簡単にできる方法とはいえないからです。
そこで次回は、DCF法よりも簡便的な評価方法であり、実務でよく使われているマルチプル法についてみていこうと思います。