テーマ選定について(2)【中小製造業のQCサークル:第5回】

前回は、Nさんたちがテーマの選定にあたり、サークルメンバー全員でアイデアを出し合ったところまでをお話しました。
今回は、これらの中から、どのようにテーマを絞り込んでいったかをお話したいと思います。

QCサークルのテーマ絞り込み

テーマの絞り込みにあたり、Nさん達は「マトリックス図」を使って、各テーマの優先順位付けを行ないました。

評価基準としては、テーマの「重要度」、「緊急度」といった要求度と、「全員が参加できるか」、「自分達で期間内に解決できるか」、「お金がかかりすぎないか」といった実現可能性の観点などから約10項目で評価しました。
このような評価基準を用いていくことは、単にメンバーの中で声の大きい人の意見が採用されたり、先輩が言っているからなどの理由でテーマが決まることを防ぐために重要です。

ただし、評価基準はいつも同じとは限らず、その時その時の必要性(現場の状況や社会的要請などの背景)に応じて、ウェイト付けなどを行っていきます。

ここで製造業では、国が策定している「特定ものづくり基盤技術の高度化に関する指針(ものづくり高度化指針)」が参考になると思います。
同指針では、ものづくり技術の分野に応じて、研究開発や生産性向上に取り組む中小企業が参考とできるように、今後社会で求められる技術の方向性及び具体的な開発手法の情報について明示されています。
一般的な業界のニーズや課題をざっくりと把握して、「重要度」や「緊急度」などを評価するにあたり有効です。

Nさんたちが上記観点から「マトリックス図」を使ってテーマの優先順位付けを行った結果、「納品後の品質トラブルの削減」をテーマとすることが決まりました。

このテーマが選定された背景を少し補足しますと、近年、自動車メーカー、家電メーカーの生産拠点の海外シフト等から国内金型メーカーの受注量は減少傾向にありました。
また、国内生産分についても、金型だけは中国などの安いものを輸入してくるケースが増えてきていました。
当社でも、他社と比べれば売上の急激な減少はなかったものの、受注元からは、国内で金型を作るメリットとして、更なる「高品質、短納期」が要求されていました。
「海外では作れないレベル」に応えていくことが、A社の会社方針として大きく掲げられていたこともあり、この会社方針に則ったテーマがQCサークルでも選定されたのだと思います。
品質の問題を解決すれば、同時に納期の問題も概ねクリアできるというのも、「品質第一」というQC的考え方です。

私どもが顧客企業でQCサークルのお手伝いをする際に、やはり最も難しいと感じているのが、テーマ選定です。
以前にお話しましたように、会社全体での方針管理を前提にお手伝いしているため、方針管理の方向性からずれていないか、また目標を数値で設定し、効果の把握をしやすいテーマかどうかをひとつの目安にしています。

ただし、これらに該当しないテーマが各サークルから挙がってきた場合にも、それに取り組むことが企業にとって非常にプラスと思われる場合には、これらの観点に固執しすぎないことも重要と思っています。
数値で測れる結果を出すこと以上に、「考える組織づくり」が重要だと考えるからです。

それでは、次回は現状把握について確認していきたいと思います。

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この記事の執筆者

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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