狭義の原価管理について【中小製造業の原価企画のポイント・第5回】

前回は原価計算のポイントとして情報開示をすることが重要であること、また具体的な方法としては、「比べる対象がある」ということが重要だとお話しました。
この「比べる対象」は初期段階では、前回の作業時との比較でもよいのですが、将来的にはあらかじめ設定された「標準原価」と比較することが大切で、これが狭義の原価管理といわれています。

この「標準原価」の考え方ですが、以前からお話しているように、「理論的にいうと、これくらいでできるだろう!」という原価です。
少し難しい言い方では、「標準の操業度において、標準の作業方法に対して、標準の能率(生産性)と標準の原価率(要素価格)を適用して算出される原価」となっています。
これは、材料費や部品費、加工費などの原価の積上げから算出されるもので、後に述べる「目標原価」、つまり「この値段で売りたいので、原価はこれくらいにしたい!」というものとは異なります。
この、積上げの標準原価は、原価計算課程で把握された過去の実績データなどをもとに、生産計画段階で設定します。

そして、狭義の原価管理とは、この標準原価と実際にかかった原価との間に差異があるかを把握し、差異がある場合にはそれを分析し、是正していく活動をいいます。
この差異の把握は、以前にお話したように、まずは直接材料費や直接部品費、外注費に焦点を絞ってやっていくことが良いと思います。

ポイントは差異を、原因の種類により2つに分けて考えるということです。

1つは数量差異で、(実際消費量 – 標準消費量)×標準価格で求めます。
数量差異の発生原因としては、
①不良(規格外)材料の使用
②作業方法の変更や能率低下
③そもそもの消費量設定が不適切だった
などが考えられます。

もう1つは価格差異で、(実際価格 – 標準価格)×実際消費量で求めます。
価格差異の発生原因としては、
①材料等の市場価格の変動、
②仕入部門の不手際、
③そもそもの価格設定が不適切だった、
などが考えられます。

標準原価と実際原価が乖離している場合には、仕入担当者や水すましを中心に、上記のような差異の発生原因を分析・報告し、工場長などの製造責任者、仕入責任者および経営陣を含め作業方法を是正する、仕入先との交渉をする、もしくは標準原価の見直しをする等の方向性を議論していくことになります。

これまで、「狭義の原価管理」と、その前提ともいえる原価計算についてお話してきました。
これらは、管理・統制することでロスが少なくなったり、従業員のコスト意識が高まることから、結果としてコスト削減につながりますが、製品のコスト競争力を格段に向上させるというのは難しいのが実情です。

次回からは、メインテーマであるコスト競争力を格段に向上させるための原価企画について考えていきたいと思います。

次回コラム

この記事の執筆者

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

この記事の執筆者

犬飼

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営
取締役
中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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