原価計算のポイント【中小製造業の原価企画のポイント・第3回】

前回は原価管理の第1段階である原価計算について、まずはある製品について「実際にいくらかかったか?」を把握することが大切、という話をしました。
これには原則として日々の消費量を継続的に記録することが必要になりますが、今回はその方法についてポイントを考えていきたいと思います。

まず1点は、全ての原価の把握をするということではなく、直接材料費や直接部品費、外注費に焦点を絞るということです。
ラインで作業をしている人々の人件費は直接労務費になりますが、これを入れると管理が煩雑になるばかりか、その後の改善活動をミスリードする可能性があります。
ミスリードするというのは、直接労務費を手間ひまかけて把握し、その結果として製品1個当たりの工数を削減したとしても、多くの場合で、手待ちが発生するか、不要な在庫が増えるかで終わってしまうことになるからです。
これについて詳しくは、後の原価企画のところでお話したいと思いますので、ここでは原価計算の第一歩としては、直接材料費や直接部品費、外注費に焦点を絞るほうが、簡単で取り掛かりやすいとだけお伝えしたいと思います。

直接材料費等の把握を具体的に行うために、多くの工場で採用されているのが「水すまし」の考え方です。
水すましの本来の意味は、「各工程に必要なものを、必要なだけ、必要なときに、材料や工具、情報を運搬する人」のことで、工程内の人が自分で材料を取りに行くのと比べ、ラインを中断させずに済むという利点があります。
この水すましの応用で、どこにどれだけの材料を運んで、どれだけ余りが帰ってきたかを記録していけば、原価計算に必要な継続的記録が容易に行えるようになります。

中小企業においては、実際に作業を行う人員以外の人を抱えることは難しいので、できるだけ現状の人員の中でその役割を作ることが大切です。
水すましは、上述した材料等の運搬や、原価計算の基礎資料の作成のみならず、在庫管理を行ったり、必要なときに各工程のサブ作業を行うなど、工場の流れを円滑化する上でも非常に有用ですので、中小企業での導入も増えています。
ただし、原価計算の資料については、水すましのような特定の人がやらなければいけないということはないので、導入時は水すましが行い、慣れてきたら各現場に任せて原価意識を高めるということも良いかもしれません。

それでは次回は、原価計算のもう1つのポイントとして、明文化や情報開示について考えていきたいと思います。

次回コラム

この記事の執筆者

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営 取締役/中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

この記事の執筆者

犬飼

犬飼 あゆみ
(株式会社みどり合同経営
取締役
中小企業診断士)

一橋大学法学部卒業、大手自動車会社のバイヤー(部品調達)として勤務後、当社へ入社。
企業評価における事業DDのスペシャリスト。事業DDでの経営課題の洗い出しをもとに、事業計画や経営計画(利益計画&行動計画)の策定・実行支援が専門分野。

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