今回は、広島県の備後地方での取組みをお話させていただきます。
ところで、皆様のご自宅には、和室はありますか?その畳は日本製でしょうか?
いぐさの畳は日本特有の文化ですから、素材も当然日本製かと思ってしまいますが、現状は日本国内で使用されている製品の70%が中国産のいぐさで作られているそうです。
今回お話させていただく備後地方では、古くからいぐさの栽培が盛んで、これを使った畳表は当地方の特産品として全国で使用されています。しかし近年、住宅の洋式化や、安価な外国産の流入などにより、備後いぐさの栽培面積はピーク時の2%にまで激減しています。同時に、いぐさ生産農家の減少と高齢化も進行しており、数年後には備後いぐさを使った伝統文化は消滅する危機にあります。
このような状況を危惧した地元の老舗建設会社(A社)の社長が、このままではいけないと現状を打破する試みを始めました。それが今回ご紹介する「備後いぐさリノベーション事業」です。
同社長は、すでに数年前から農業生産法人を立上げ、農業に進出していましたが、いぐさ栽培への新規参入は難しいだろうと考えていたそうです。なぜなら、いぐさの栽培は、真冬の値付け期には氷水の中での作業となり、真夏の収穫期には朝の4時から長時間の過酷な作業を必要とします。その上、栽培技術および畳表の製織技術等も必要となります。それでも何とか伝統産業を守りたいと、A社は、他社や業界団体、地方自治体と連携しながら進めていくことになりました。
具体的な取組み内容をご紹介しましょう。
(1)過酷な作業に対して、建設会社のB社が農作業(主に候補地の耕作)を請け負い、建設業の視点で様々な改善を図る。(B社はもともと本業でA社と元下関係にあり、よい意味での関係が続いている)。
(2)建設会社のC社(A社のグループ会社)が、いぐさ栽培に欠かせない良質の水と土の再生を担当。同社の技術により、従来、非常に限定されていた耕作地の拡大を図る。
(3)農業生産法人D社(A社のグループ会社で社長兼任)が、備後いぐさの栽培および畳表製織技術を継承し、生産にあたる。
また、これらの取組みは、いぐさ生産組合による技術指導や、建設業団体および広島県の調整のもと進められています。
発起人であるA社の社長は、自ら地元の農家に通い、日々いぐさ栽培について学んでいるところだそうです。次回は、これらの取組みの効果を中心にお話したいと思います。
みどり合同経営 コンサルティング部門
中小企業診断士 犬飼あゆみ
執筆者ご紹介 → http://ct.mgrp.jp/staff/inukai/
前回までのレポートはこちらをご覧ください → http://ct.mgrp.jp/column/c13/